“暮らしの肥やし”を育む旅へ ~おだか微住・後編~

“暮らしの肥やし”を育む旅へ ~おだか微住・後編~

微住の醍醐味は旅のネタ切れから始まる。
微住をスタートして3日くらい経つと、ある程度土地勘がついてくる。しかも小高のまちはコンパクトだからなんとなく馴染むスピードも早く感じる。数日でパンフレットに載っているところはある程度巡った。

もしも観光の旅であればこれでおしまいだが、微住はこのタイミングから始まると言っても過言ではない。いよいよ旅行モードから暮らしモードへ。それはスイッチのようにパチっと切り替わるのではなく、少しずつ微調整していくように非日常の旅の中に自分の日常を混ぜあわせていく。

近年、地方への「ワーケーション」の旅が注目されている中、小高へワーケーションに訪れる人も増えている。小高へワーケーションをする魅力や価値は一体なんだろうか。1週間から2週間程度を目安に滞在し自分のゆるさと(第3のふるさと)づくりをする「微住」とも、きっとその目的や答えは近いように思える。仕事することと休暇をすることをON/OFFのスイッチにように暮らすのではなく、この地域に根付くヒトモノコトにできる限り混ざり合って、暮らしの肥やしを育むワーケーションや微住が、ここ小高にはピッタリな旅だ。

仕切りに頼らない時間・場所・関係の中で

小高ワーカーズベースが運営する「小高パイオニアヴィレッジ」は、宿泊機能の付いたコワーキングスペースであり、微住中何泊かお世話になった。福島県内はもちろん首都圏を中心に県外からもテレワークやワーケーションに来る利用者も多い。この施設は「境界のあいまいな建築」というコンセプトをもとにつくられたひな壇型のコワーキングスペースが特徴の1つ。

この施設のスタッフも、このまちに移住し作業スペースとして利用するご近所さんも、そして私のような旅人や宿泊者も混ざり合い1つの空間を共有する。仕事をしたり、少し休みたくなったら部屋に戻り、またコワーキングスペースで雑談をしたり、スタッフと混ざりひな壇横のキッチンで差し入れをいただいたり…。プライベートとパブリック、業務時間内と時間外、ゲストとホストの関係が曖昧になることで、このまちで“暮らしている”感覚がより強くなっていく。

小高ワーカーズベース代表の和田さんは「小高は震災後ほかのまちに比べると行政や大きな企業ばかりに頼りすぎず、自分たちで課題を新たな地域の事業や雇用に作りかえてきました。人と同じでまちも“ほったらかし”な状態の方が暮らしの闘争心を持った人同士集まり、決起し合えるんだと思います。」と言う。

まさに彼の言葉どおり、小高のまちもこの施設のように“仕切り”がないように思える。時間も場所も、そして関係もお互いの“仕切り”がある方がなんだか安心するかもしれない。しかしこのまちは仕切りに頼らない。

一度ゼロになったこのまちだからこそ、元住民も移住者も、そして年齢や職業に限らず“みんなでこのまちをより良くしていこう”という目には見えない共通したイズム(考え)とリズムがまち全体のオーラになり、外から来た我々も日に日にこのまちに惹き込まれていく。

移住者の暮らしに混ざり合う日々

良いまちの証は良き移住者にあり。

このまちを好きになり自ら選んで移住した素敵な友人たちとの出会い、そして彼らの暮らしに混ざり合う体験は、このまちの旨味を感じられる方法の1つだ。

微住の初日、居酒屋「更紗」で出会った店員の伊藤くん。彼は東京出身でここ小高に移住し、このお店や「パイオニアヴィレッジ」で働きながら、それ以外も地域のイベントや困りごとにもよく声をかけられる“まちの助っ人”として重宝されている。

そのほか、小高の美しい田園風景が望める平屋をデザイン事務所兼住居としてリノベーションし、“表現”を通じたこのまちの新たなハブ拠点として「粒粒」をオープンした西山さん。「小高テック工房」の塚本さんは小高にITエンジニアや企業誘致をしながら、”まちのIT屋”として、地域の困りごとを“テクノロジー”で解決している。彼女たちの共通点は仕事の肩書きだけで暮らしていないことだ。1つの肩書きではなく、自分ができることを「#ハッシュタグ」で増やしながらこのまちが必要としていることや困っているところとマッチさせ、暮らしている。

「確かに僕、働くのは苦手ですが、生きるのは得意ですね!」と笑いながら話す伊藤くん。
地域で豊かに暮らす力はこれ“が”できる肩書きではなく、これ“も”できる、これ“も”興味あるというハッシュタグの多い人間力。その人間力を発揮できるのは、目に見えるまちの賑やかさや表面的な魅力ではなく、足りないものや必要としているものが目に見えて、隙こそ好きになれる小高のまちの魅力なのだろう。

地域へのタメづくりが新しい関係の種(タネ)に

微住中、地域に携わる1つの方法として、地域への「タメづくり」を行うようにしている。ある日、小高区役所でたまたま出会ったコヤギファームの三本松さん。

彼はワインを小高の新しい名産品にして町に活気を生み出したいという思いで、2019年ワイン用にブドウの栽培からワインづくりを始めた。数日後にちょうど収穫の手伝いが必要だということで地域の皆さんと一緒にお手伝いにいくことに。「お、田中くんも来たんだね!」と顔馴染みの人も手伝いに来られていて、そんな再会も微住後半ならではのこと。

自分が収穫を手伝ったブドウが来年のワインとなりこのまちのタメになっていく…。持ち帰れる自分のタメの体験よりも、持ち帰らないこのまちのタメの体験の方が思い出になっていく気がする。そして地元の皆さんと混ざり合って汗をかいたり手足を動かすことが、暮らしの肥やしとなり、新しい関係のタネになっていく。

愛が着陸していく旅の終わり

微住最終日。小高は今日も変わらず静かだ。その反面、双葉屋旅館の食堂では海外からの旅人やこれから小高に移住予定の方などが混ざり合い、日本語だけではなく外国語が飛び交い賑やかだ。

最終日は決まってお世話になった人へ挨拶まわりをする。
この微住中、連日通った「大三食堂」へ伊藤くんと最後のランチへ。

特に美味しかったこのお店の「肉うどん」はこの旅の微住飯だ。
なんと…言葉数少ないお父さんが「コーシー飲んでっか?」とコーヒーをサービスしてくれた。

その後、谷地魚店に向かうと、お父さん1人のようだ。「あらー、今ちょうどお母さんは配達に出かけちゃったよ」ということでちょっと残念だけどお父さんに別れを告げ、駅に向かう。するとお母さんから「今どこー?」と電話がかかり、駅までわざわざ柿を持ってきてくれた。良い微住の証は良い別れにある。また会いにいきたくなるゆるさとへのチケットはこうして発券された。

駅に到着して振り返ると初日と変わらず、まっすぐのびる道路。町の景色は何も変わっていないけれど、全然違って見える、これが愛着の正体だ。愛が着陸すると書いて「愛着」。

これから約8時間かけて帰路へつく。こうして“わざわざ”来たくなる場所へまた会いに行きたくなれるこの気持ちこそ微住や地方へのワーケーションの本当の価値だと思う。移住しない移住もあっていい、愛の形も様々で、このまちへの関わり方もグラデーションがあってこそ、目には見えないこの土地の厚みになる。
小高駅にはこの旅で出会えたみんなも見送りに来てくれた。「また来るわ」と約束を交わす。

小高に、私のゆるさとあり。一期三会、また会いに来ます。


【Profile】
田中 佑典
福井県福井市出身。職業:生活芸人
アジアにおける台湾の重要性に着目し、2011 年から日本と台湾を行き来しながら、台日間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う“台日系カルチャー”のキーパーソンとして活動。日本と台湾を行き来する中で、地方創生の方面にて福井発祥の新しい旅の形『微住®』を提唱。2018 年度ロハスデザイン大賞受賞。2020 年、2021 年と徒歩で福井県 17 市町を巡る『微遍路』を実施。各地域での出会いやその 地域でまだ知らない魅力を発掘する様子が反響を呼び、各メディアにて取り上げられる。現在は福井県内だけに問わず、県外の行政ともタイアップするなど『微住®』の活動を広げる 一方、今後の未来で価値となり得る生活の考え方や暮らし方を様々な形で日々発信している。