ここ小高に、“ゆるさと”あり。~おだか微住・前編~

ここ小高に、“ゆるさと”あり。~おだか微住・前編~

地域の暮らしの旨味を味わう旅へ

「微住Ⓡ」(以下、「微住」)とは、一般的な観光でも移住でもなく、暮らすように1~2週間程度、地域の滞在を楽しむ旅を指す造語である。いわゆる消費型/スタンプラリー型の“観光”ではなく、暮らしを味わい、地元の人たちとの関係を育みながら、自身の第3のふるさと“ゆるさと”をつくる旅だ。今回は福島県南相馬市小高区で「おだか微住」と題して現地に暮らし、このまちの魅力を前後編で紹介する。

この旅は10年ほど前から台湾と日本を行き来しながら両国のカルチャーの橋渡しの活動している私田中が、2017年頃より台湾からの訪日客に対して日本の地域やローカルをより味わってもらう旅の形として提唱をしてきた。最初は私の故郷である福井県で受け入れをスタートし、その後私自身もアジア各国の地域への「アジア微住」をライフワークとして行い、地域/ローカルの魅力発信をしてきた。現在この微住は日本の他県にも広がり、今回はこうして小高区にご縁をいただけた。

目に見える賑やかさでは、まちの魅力は量れない。

おだか微住の初日、JR常磐線「小高駅」を降りると、まっすぐ一本道が伸びている。

日曜の夕方、人通りは少ない。とても静かなまちというのが最初の印象だ。小高区は2011年の東日本大震災で一時は全区民避難となったが、2016年に解除され、現在は約3,800人が居住している。近年ではこのまちに移住する若者も増えている。その理由はこの景色からは見えないがこのまちならではの魅力があるからだろう。それは一体何なのだろうか。

微住序盤は「まちのスキャン」と題して、できる限りまちを歩く。初日は荒めの解像度だった脳内のマップも、日を重ねていくうちに随時アップデートされ、土地勘がついてくる。観光スポットのように自分が現地に行かなくてもネットを調べればなんとなくどんな場所かが分かるよりも、自ら発掘や開拓するようにまちを歩き、気になったら入ってみる、触れてみる、話してみる、食べてみる。そこから地域の旨味がじゅわっと出てくる。

再び帰ってきた先輩たちと出会う“心の観光”

まちを歩いていると「谷地魚店」を発見する。夕飯にと刺身をテイクアウトしようとすると、“うちで食べていったらどうだ”とお誘いを受ける。なんとお店併設の住居の居間で、買ったお刺身だけではなく、ご飯や味噌汁、さらにお魚料理も振る舞ってくれた。食事をしながら谷地さんの震災以前から以降のお話、そしてこのまちへの熱い思いを聞く。自分の生まれ育ったまちへの愛があるからこそ、このまちに移住をする人たちはもちろん、このまちを訪れる人にも感謝の意味を込めて、こうして魚を買ってくれた人たちを家に招き入れ始めたそうだ。「最近は米の減るスピードが早い」と笑いながら話す。とってもチャーミングな奥さんと仲良しな谷地さんのスペシャルな暮らしの中のおもてなしで、心の芯をグッと掴まれる。「谷地魚店」は、このまちと新たな住民や旅人をつなぐ「まちの駅」そのものだ。

もう1人。とあるお店の前を通りかかると、ガラス越しに見たことのないスニーカー型の陶器?を発見。発見した日は不在だったようで、翌日再度行ってみる。 今度はいらっしゃったので、中に入らせてもらうと外から見ていたよりもずっとたくさんの陶器の作品が展示されていた。このまち生まれの志賀さんは震災後一時は埼玉県に避難していたが、このまちが好きで、再び戻りかつて自宅兼美容室だったこの場所で、「我楽多焼(がらくたやき)」という名前で陶器の作品のギャラリー兼お店をやっている。「全部遊びよ!」って笑って話す志賀さん。しかしそのレベルは数々の陶器のコンテストでも受賞するほどの実力。他にも車やバイクが好きな志賀さんは陶器で模型を作ったり、スケッチもプロ並み、そして驚くことに全て独学、自己流。さらに、スポーツも得意な志賀さんは野球や陸上も現役で、陸上では福島県記録も持っている。一度は強制的にこのまちに住めなくなった先輩たちはこのまちが好きで自分の意志で前向きに戻ってきた。だからこそ志賀さんのように買う暮らしではなく、自己流で暮らしを作り楽しむ。そんな先輩たちの姿やこの笑顔も移住者がこのまちに馴染んでいける理由の1つなのだろう。

何度も通う、馴染みの店や人への愛着づくり

個人的な好みもあるかもしれないが、誰にでも分かりやすい“映える”場所やお店よりも、何度か通わないと旨味を咀嚼できない“地味る”場所やお店の方に惹かれる。地味るという言葉は“映える”の反対の意味を表現しようと「地味」という言葉を文字った造語だ。“土地の味”と書いて「地味」。微住は時間をかける旅だからこそ、味だけではなく“味わい”のあるこの土地に根付くお店と出会いたい。まちを歩いていると、小さなホワイトボードに「大三食堂」と書かれた食堂を見つけ、この日から何回か通うことに。一度目の来店では単なる知らない客だった自分も、もう一度行ってみると、「どこから来たの?」と店主から声をかけてくれた。さらにもう一度行けば、すでに馴染みのお店になっていく。微住ではお店や地元の人たちに対しても一期一会ではなく”一期三会”の関係づくりを大切にしている。小高も映えるまちというよりは地味るまち。一回だけじゃ味わえない、自らが手を伸ばしてもっと地域の深いところを体験することで、それがまちへの愛着へと変わっていく。

“時間持ち”の旅と暮らし

微住はお金以上に時間のかかる旅だ。どのまちに行っても、どんな人に会っても最初はお互い格好付けるのは当たり前。そこから懐に入るためには時間はかかるもの。しかしいつの間にか我々は旅にも暮らしに対しても効率を重要視しているように思える。

微住でいつも不思議な経験をすることがある。それは仮に数日の観光旅行であれば味わい切ったかのように思えるどんなに小さなまちでも、時間をかけそのまちにより深く関わっていく微住だといつになっても満足できないし、どこか未完成のままだ。

作家・柳美里さんが開業したブックカフェ「フルハウス」は微住中毎日のように通い、ゆっくりと読書を楽しんだ。副店長の村上さんとのお話の中で「美里さんは“取材”という日本語が好きではないんです」という話にハッとさせられた。確かにこの言葉からは“簡潔に良いとこだけ取りにいく”感じがある。まさに旅も“取材”的にただ良いところだけをピックアップすることが良いとは思えない。特にそれが観光地でもない地方やローカルではあれば尚更だ。

微住は完了しない旅、それは人との関係づくりにも、そしてまちづくりにも同じことが言える。

そこでキーワードになるのは「時間持ち」という価値を再考することではないだろうか。

(後編へ続く)


【Profile】
田中 佑典
福井県福井市出身。職業:生活芸人
アジアにおける台湾の重要性に着目し、2011 年から日本と台湾を行き来しながら、台日間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う“台日系カルチャー”のキーパーソンとして活動。日本と台湾を行き来する中で、地方創生の方面にて福井発祥の新しい旅の形『微住®』を提唱。2018 年度ロハスデザイン大賞受賞。2020 年、2021 年と徒歩で福井県 17 市町を巡る『微遍路』を実施。各地域での出会いやその 地域でまだ知らない魅力を発掘する様子が反響を呼び、各メディアにて取り上げられる。現在は福井県内だけに問わず、県外の行政ともタイアップするなど『微住®』の活動を広げる 一方、今後の未来で価値となり得る生活の考え方や暮らし方を様々な形で日々発信している。

撮影…中島悠二