小高とお酒と、造るひと。—お酒の造り手座談会【後編】—

小高とお酒と、造るひと。—お酒の造り手座談会【後編】—

ワインや梅酒、ミード酒(蜂蜜酒)に“クラフトサケ”など、地域の中で多彩なお酒が造られている小高。そのお酒造りに携わっている5人が一堂に会し、座談会を実施しました。後編ではビジネスの話からそれぞれが思い描く未来像まで、さらに深い話を伺うことができました。

「好奇心の赴くままに、自分が飲みたいお酒を」

他の方の話に相槌を入れて、場を盛り上げてくれた大内さん。

時間の経過と共に、どんどん打ち解けていく造り手のみなさん。話題は事前に募集した質問でも多かったビジネスについて。

——三本松さんは販売先の割合やターゲット設定について、みなさんがどう考えているか知りたいということですね。

三本松さん はい。私の会社は現在、販売先の9割が地元、1割が県外からネットでという状況です。例えば立川さんはどういう感じで考えているんでしょうか?

立川さん 僕のお酒は全国40店舗くらいで扱っていただいていて。単価が日本酒にしてはちょっと高めなこともあって、県内や地域内では苦戦している印象ですね。

大内さん 県内は日本酒の激戦区だもんなあ。

立川さん ただ、SNSだったり、ネットでのPRには割と力を入れていますね。あとは丁寧に売ってくれる酒販店を見つけるのも大切だと思っています。でも、地元で9割も消費してもらえるというのはいいことでもありますよね。

三本松さん そうともいえますね。ただ、もっと話題づくりや営業をがんばろうと思っています。

事業拡大を見据える三本松さんは「今後のヒントにしたい」と話しました。

——大内さんからは競合商品との差別化について質問をいただいています。

大内さん 俺や渡部さんのお酒は原料が手に入りにくいから、それだけで珍しさがあると思うんだけど、他のお酒だとなかなか特徴を出すのが難しい中でどう工夫しているんだろうと気になって。佐藤さんは上手そうだよね?

佐藤さん うーん。僕は元々、競争するの苦手なんですよ(笑)。

参加者 (笑)

佐藤さん 基本的には、競合がいない場所でお酒を造りたいというのがあるんです。そうすることで自分が飲みたいお酒を好奇心の赴くままに造ることができます。それにその姿勢を見て、消費者の方もワクワクしてくれるような感触がありますね。

——確かに画一的な商品よりも、造り手のこだわりやクセがある方が選ぶ側も楽しいですよね。立川さんはどうですか?

立川さん 数あるお酒の中から選んでもらうために、唯一無二であるということをすごく意識していますね。浜通りのお酒ということに理由があって、「この地域のお酒だからこその味だよね」と思ってもらえるような商品を造っていきたいんです。

大内さん 佐藤さんも立川さんも、地域の将来を考えてくれているのが本当に嬉しいですね。二人の話を聞くと応援したくなるね!

「発信はすごく大事。いいお酒を造ってもそれを伝えられないと、消費者の方もなかなか選べませんよね」と立川さん。

地域と造り手でシンクロする“フロンティア・スピリット”。

佐藤さんは「小高のフロンティア・スピリットをお酒で表現できれば」と語りました

——小高出身のお三方は佐藤さん、立川さんの移住をとても喜んでいるようですが、お二人は小高を選んでよかったと感じる部分はありますか?

立川さん そうですね。まずは素晴らしい米農家さんが近くにいるのは大きいですね。そして先ほど佐藤さんが言っていたような執念や心意気をお酒にして、全国に発信できるというのは、すごくやりがいがあります。

佐藤さん 僕もあらかたその通りですが、少し違う視点の話でいうとお酒や酒蔵って、地域の“今”を表現する文化の担い手でもあると考えているんです。

——立川さんが前半に仰っていた「地酒」にも通じる話ですね。

佐藤さん 特に僕らは「フロンティア・スピリット」を持って、日本酒の中でも新しいジャンルを自分たちで切り拓いていこうという気概でいます。

——開拓者精神ですね。

佐藤さん この辺りは震災後、ある意味で一度途絶えてしまった暮らしをもう一度自分たちで開拓していくタイミングにあると感じています。その地域と自分たちの酒蔵の状態がシンクロしていて、一緒に挑戦して、成長できるんじゃないかと思っています。

——そういった姿勢は、今回集まっていただいたみなさんにすごく感じます。渡部さんが手掛けている養蜂も小高や浜通りでは、なかなか聞かないですよね?

渡部さん 浜通りで生業として養蜂をしている人は、ほとんどいませんね。奥会津※のように四方八方を山に囲まれている方が蜜源は多くなるので。ただ、土地が余ってしまっている状況の中で、自分がやれることをやろうと取り組んでいます。

※福島県西南部に位置する7町村(柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町、南会津町、檜枝岐村)一帯の総称。雄大な山々や清流・只見川など手つかずの豊かな自然が息づき、豪雪地帯としても知られる。

渡部さんは「蜂蜜をちょっと焦がした“ボシェ”というお酒にも挑戦したい」と意欲的。


より自由で個性的なお酒を小高から。

時には、記事には載せられないディープすぎる話も(笑)。

気付けば座談会はすでに1時間以上が経過。話題はこれからのことに移りました。

—–佐藤さんからは事前の質問で「予算や制約を取っ払った時に実現したい妄想の未来を知りたい」とありました。

佐藤さん 前半で渡部さんが趣味の延長線というような話をしていましたが、僕はそういったものこそが文化を築くと思っていて好きなんですよね。もちろん商売ベースでもいいのですが、マーケティングを気にすると多様性も生まれにくいですし。それぞれが本当に好きなお酒を造ることが豊かさだなと思っているんです。

—–先ほども「好奇心の赴くままに」と仰っていましたね。

佐藤さん はい。昔のどぶろくのように家庭ごとに思い思いの酒を造るような町にできたらいいなと考えていて。制度などを含めて変えていける可能性が結構あるんじゃないかと。「俺とお前の酒で飲み比べしようぜ!」といったような自由でおもしろい世界を見てみたいですね。

—–個性的なお酒をきっかけに人が繋がり、豊かになっていくと。立川さんはどうでしょうか?

立川さん これまで醸造所を持たずにやってきましたが、2024年の夏に醸造所を小高に立ち上げる予定です。もちろん商業的にしっかりしたものを造ることも大切にしつつ、小さな規模でもお酒を仕込めるようにしたいと計画しています。

———-それだと個性的なお酒が造れそうですね。

立川さん そうですね。梅酒やミード酒を日本酒に入れながら発酵させるみたいなこともできると思いますし、小さいということに、むしろ価値があったりするのかなと。なのでみなさん、ぜひご一緒できれば(笑)。

大内さん おー!ぜひぜひ(笑)!

渡部さんからは「これらのお酒をワンセットで贈答品にしては」というアイデアも。

———-三本松さんは、将来ワイナリーを造りたいという話もありましたが。

三本松さん はい。夢はいくつもあって。まずは醸造所をつくって、地場産品のショップやレストランもそろえて地域を活性化させたいですね。さらに息子が障がいを持っているのでB型就労支援施設も整備して、障がい者が一緒にぶどうを栽培する場所にできれば。

———-お酒が観光や雇用に繋がると、より地域も盛り上がりそうですね。

三本松さん そうですね。あとは特区をつくってもらって、醸造でも蒸留でもさまざまな造り手を全国から呼び込めないかなんて想像しています。

立川さん 昔、佐藤と話したんですけど例えば“自家醸造特区”のような、家で自由に造っていいというルールがあればすごくいいのになと。これは妄想すぎるんですけど(笑)。

参加者 (笑)

三本松さん でも、震災後にお酒で挑戦しようという人がこれだけ集まったのを見ると、可能性はあるんじゃないかな。

渡部さん お酒の種類がバラエティに富んでいるので、イベントを開いて飲んでもらって、それを地域にふれるきっかけにするのもひとつの手かなと思いましたね。

大内さん 俺もお酒を通して地域のことを知ってもらって、外部から人を呼び込むことに役立てたいっていうのが一番かな。

———具体的に考えていることとかありますか?

大内さん 家の石蔵には梅用の貯蔵庫があるし、2階にはギャラリーを造っているんですよ。これをどう活かしていこうかと構想中です。

———実際に動き出しているんですね。楽しみです!

お酒造りのヒントと、これからの可能性。

予定時間をオーバーし、さまざまな話題で座談会は盛り上がりました。

—–最後に今回の座談会の感想を聞かせてください。まずは渡部さんお願いします。

渡部さん 佐藤さんや立川さんが自分とはまったく違った感性で、一生懸命やってくれているのを知って参考になりましたし、逆に見習っていかなきゃいけないなと思いましたね。

大内さん だね!畑を広くしたり、作るものを増やしたりすることは簡単だけど、どういう人にPRして売っていくかっていうのが難しくて。二人の話を聞くと、なるべく特徴のあるものにした方がいいかなっていう感想だな。その辺は三本松さんも参考になるんでねえかなと思って聞いてたんだけど(笑)。

三本松さん そうですね(笑)。それぞれの考えがあって参考になりました。これをきっかけに1年に1回でも情報交換会や新酒の発表会みたいな機会があってもいいのかなと思いました。

—–いいですね。立川さんは今回参加してみていかがでしたか。

立川さん とてもおもしろかったですし、地元の方々がどういう気持ちでお酒造っているのか、移住者をどう思っているのかっていうことを知れたのでありがたい機会でしたね。

—–ありがとうございます。最後に佐藤さんお願いします。

佐藤さん はい。まずは書けないような赤裸々な話も多くて楽しかったですね(笑)。あと感じたのは、地元で守るものや受け継ぐものがある中、自然体のまま革新的な挑戦をしているお三方が改めてすごいなと。

—–大変なことも多いと思いますが、その中で楽しみを見出しながら挑戦している姿が魅力的というか。

佐藤さん そうですね。みなさん、謙遜なさいますが。

大内さん そんなそんな!でも、そういうふうに思ってもらえるっていうのは嬉しいね。ただ、地元の人間としては二人みたいな人たちに助けられたと感じてるんだ。だから、これからも一生懸命やってもらって、外から人を引っ張ってきてもえると(笑)。

佐藤さん はい!がんばります(笑)!それにも関連するのですが、小高駅に醸造所と地元のお土産などを並べるショップを2月(2024年)にオープンする予定なんです。駅が無人駅になってしまう中で、明かりを灯しつ続けられるようにやれればと考えているので、みなさんのお酒も置かせてください!

大内さん ぜひ!お願いします!

—–小高にまた一つ新しい魅力が増えますね!期待しています。みなさん、本日はお忙しい中、長時間ありがとうございました!

座談会の後半では、普段はなかなか聞いたり、伝えたりすることができない想いについて語り合い、これからのお酒造りの可能性が広がりそうな話まで飛び交いました。“妄想の未来”も造り手のみなさんを見ていると、決して不可能な話ではないと感じられます。5人の個性やストーリーが詰まったお酒が醸成する豊かさに期待しながら、その味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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