東京の大学生が小高に1カ月間住んで感じたこと。
― 「小高区地域づくりインターン」学生座談会 ―

東京の大学生が小高に1カ月間住んで感じたこと。<br>― 「小高区地域づくりインターン」学生座談会 ―

南相馬市のインターンシッププログラム「小高区地域づくりインターン」。今回は、このインターンに参加した3人と、メンターとして参加した1人の合計4人の大学生による座談会を開催。小高で1カ月暮らして感じたことやこれからのことについて、都内の大学生の視点から、ラフに話し合ってもらいました。

さまざまな想いを胸に参加した学生たち。

左から合田さん、濱口さん、高馬さん、村上さん。

今年で3回目を迎える「小高区地域づくりインターン」。大学生を受け入れるのは、さまざまな起業家や人々が集まるコワーキングスペースを運営するなど、地域に新たなビジネスを生み出している株式会社小高ワーカーズベース。今年のインターンシップには10人の大学生が参加し、小高区に約1カ月間暮らしながら医療福祉・食・農など地域が抱える課題に対するリサーチを行い、発見した本質的な課題やその解決策を提案。最終日には地域の方々の前でレポートを発表する成果報告会が行われました。

——みなさん、一昨日は成果報告会お疲れさまでした!はじめに自己紹介をお願いします。

村上さん 神奈川県出身の村上琢哉と申します。都内の大学院修士課程2年生で公共政策を学んでいます。机上の学修だけではなく、身を持って公共政策の現状を体感したいと思い、このインターンに参加しました。

高馬さん 東京都出身で都内の大学に通っている高馬一希です。アルバイトをしているゲストハウスでさまざまな価値感にふれ、もっといろいろな人たちと出会えればとインターンに参加しました。

濱口さん 濱口乃慧(のえ)です。都内の大学に通っています。インターンに参加したのは、将来、地元の三重で地方創生に携わりたいと考えているので、その際のヒントになればと思いました。

合田さん 山梨県出身で大学4年生の合田葵です。1年生の頃から小高に関わるようになり、昨年はインターン生として参加し、今年はメンターを務めました。

9月14日に小高パイオニアヴィレッジで開催された成果報告会の様子。

——ありがとうございます!みなさんがインターンでどんなことをテーマにしたのか簡単に教えてください。

村上さん 私はペアを組んだもう1人と医療福祉をテーマに、「小高区で最期まで安心して暮らせる」ことを理想像として、それを実現するための課題や解決策について提示しました。

高馬さん 自分は濱口さんとペアで、個人農家の農地継承などについてテーマにしました。

濱口さん 移住者が農業に興味があるというデータをもとに、「農地を残したい」と考える個人農家と移住者をうまくつなげられないかという提案を発表しました。

高馬さん、濱口さんは移住者を巻きこんだウェルビーイングな農業の在り方を提案。
村上さんは医療介護の人材や資源不足の中、人のつながりの大切さを訴えました。

——インターンはどうでしたか?

濱口さん 本質的な課題を見つけるのに時間がかかってしまって。最後の1週間はかなりバタバタしましたよね?

高馬さん 本当に何度もみっちり話し合ったよね(笑)。もちろん農家さんの想いは一人ひとり違うし、なかなか時間がない中で情報をまとめるのが難しいところはありました。

村上さん 私も同じような感じで、自分なりに意気込んできたつもりだったけど、もっと情報を深めたりしたかったし、いろんな人の意見も聞きたかったですね。

濱口さん そうですよね。ただ、こういった場所で1カ月もリサーチに励むという経験ができたことはすごく良かったです。

——合田さんはメンターとして、どのように動いていたんですか?

合田さん 基本的には軽めの壁打ち相手のような役割が多かったですね。あとはインターン生の生活面やパーソナルな面での相談に乗ったりしていました。

高馬さん 僕も生活面、インターン共に、合田さんにはすごくお世話になりました。

濱口さん 私も一緒にゲームしてもらったり、気さくに声をかけてもらったり、サポートしてもらいました。

合田さん やっぱり自分はこの地域が好きだし、インターンの活動以外でもみんなに小高が好きになってもらいたいからね。

小高の自然と人に魅了された日々

シェアハウスで共同生活を送り、「みんなで料理を作ったり、楽しかったですね」と村上さん。

——合田さん以外の方は、小高は初めてですか?

村上さん そうですね。正直、想像よりも空き地や空き家が多くてびっくりしました。

濱口さん 私も初めてで、小高という地域のことは何も知らなかったんですが、村上さんとは反対で思ってたより何でもあるなって思いました。

高馬さん 僕も小高に来たのは初めてです。インターンが終わって、ようやく小高をフラットな目線で見られているような気がしています。

——なるほど。改めて小高を見て、どんな印象ですか?

高馬さん すごくゆっくりと時間が流れているなと思っていて。特に朝の時間が好きなんです。

——朝ですか?

高馬さん はい。小高は夜の星空がとてもきれいなんですが、特に朝の空の青さや広さが好きで。朝早く起きて、そういった景色を見たり、ゆっくり読書する時間が心地よかったです。

村上さん 昨日…というか今朝もみんなで空を見に行ったよね?

濱口さん 実はインターン生みんなで徹夜して、草っ原に寝っ転がって夜空を見たり、朝日を見に行ってきたんです(笑)。

合田さん そうなんだ!みんな、寝てないの!?

高馬さん さっきまで寝てました(笑)。

高馬さんは東京では夜型だった生活が、小高では朝型になったそう。

——青春ですね!そういった自然以外にも小高でどんな魅力を感じましたか?

村上さん 私が魅力的だと感じたのは、まちの中を歩いていると普通に挨拶されることです。神奈川ではあまりないことなので最初は驚きましたが、すごく心が温まりました。

濱口さん そうですよね!インターンのインタビューで出会った人も多いし、たくさん声をかけてもらえてうれしかったです。歩いているだけでも、いろいろな人とコミュニケーションが取れて楽しかったですね。

——みなさん、地元の人たちとたくさん交流できたんですね。

高馬さん 僕は現地に来るまでは小高に起業家が多いと聞いていたので、みんなが挑戦に意欲的な「小高=フロンティア」みたいなイメージでした。ただ、実際に住んでみると、そういった面もありつつ、ゆっくりとスローライフを楽しむ人もいて。いい意味でそれぞれの人たちが主体性を持っていてバラバラだなと思いました。

濱口さん 確かに、東京をフラフラしているだけだと、こんなにいろいろな人たちに出会えないですよね。ただのスローライフを送るんだったら、他の地域でもできるけど、いろいろな人に簡単に出会うチャンスがあるのは小高らしさだと思います。

村上さん 都会の喧噪に疲れてスローライフを送りたい人も、新しいことにチャレンジしたい人も、どちらも実現できる人や環境がそろってるよね。

濱口さん 例えば地方に移住したい人の中には、仕事もバリバリやりたくて移住に踏み出せない人も多いと思います。小高ならそういったキャリアも諦めずに、豊かな自然の中で暮らせますよね。

高馬さん 小高の中には、たくさんのコミュニティがあるよね。新しい事業に挑戦する人たちのコミュニティや農家さんのコミュニティ、スローライフを楽しむ人たちのコミュニティ…。そういった選択肢を持てるのが小高の魅力だと思います。

「いろいろな刺激を受けて、充実した1カ月でした」と濱口さん。

挑戦を恐れずに、これからも小高と。

調査や提案から解放され(?)、終始和やかな雰囲気のインターン生たち。

——先ほどから合田さんは、3人の話に強くうなずかれていますね。

合田さん はい。もう、シンプルにすごくうれしいですね!自分が伝えたかった小高の魅力が、ちゃんと届いているなと。

——合田さんは大学1年生の頃から小高によく訪れたり、ガイドのような仕事もしているそうですが、どのあたりに魅力を感じているのでしょうか?

合田さん やはり私も小高は場所よりも人が魅力だと思っていて。何かにチャレンジする人や、一歩引いてフォローする人、昔からここで育った人や移住してきた人。いろいろな人の人生にふれられることが面白くて、何度も帰って来ちゃうんです。特に同世代の若い人が挑戦している姿は、大きな刺激になりますね。

インターン生の言葉に深く共感する合田さん。

——そのあたりは、しっかり伝わってそうですね。インターン生のみなさんは、ここでの暮らしやインターンなどを通して、自身の変化や成長は感じられましたか?

村上さん 割と自分は保守的な性格なんですが、殻を破る準備ができたような気がします。

——そのきっかけや要因は何でしたか?

村上さん 小高は失敗を受け入れてくれる環境があると感じました。失敗しても周りの方がフォローしてくれて、「また、次やろうよ」「どんどん失敗しなよ」という雰囲気があるので、自分も失敗を恐れずに挑戦していこうと考えるようになりました。

合田さん ここには自身も挑戦や失敗を重ねてきた人たちが多いから、そういった環境があるのかもしれないね。

高馬さん 僕も少し似ていますが、自分なりに主体性を持って進められるようになったと思っています。小高では地域の方がそれぞれ想いを強く持っていて。その中で例えば小高パイオニアヴィレッジの人たちがどんどん前に進んでいるのを見て、自分も何かしないと前に進めないなと。

濱口さん 私はインターン生や地域の方々とのやり取りを通して、自分という存在に向き合えました。ただ、何よりも人も自然も魅力的な小高という地域とのご縁ができたことがうれしくて。今は東京に戻りたくないくらい(笑)。また、絶対小高に帰ってくるんだろうなと感じてます。

——とてもうれしいメッセージですね!

村上さん 私もせっかくできた縁ですし、小高がこれからどういう変化を遂げるのかと楽しみなので、何らかのかたちで関われたらうれしいです!

高馬さん 僕はインターンを経て、小高ワーカーズベースから仕事がいただけることになって。東京からオンラインにはなりますが、小高と関わり続けられることがありがたいですし、また必ず現地を訪れて、地域のことをもっと深く知りたいと思います。

合田さん 私は3人が小高に携わろうとしてくれるだけで、自然とニヤニヤしちゃいます(笑)。その姿勢だけでも、すごくうれしいし、期待しています。

——みなさん、本日はありがとうございました!

進学や就職のために地域の外へ出て行ってしまう若い人も多い中、関東に住む大学生から見ると、小高はたくさんの魅力や可能性があふれるまちだったようです。現地で暮らしていると当たり前になっているものごとでも、他の地域から見れば大きな価値やオリジナリティになる。そんなことに気付かされた座談会でした。そんな視点で、改めて小高の暮らしを見つめ直してみると、これからの豊かで心地よい暮らしにつながる大きなヒントが見つかるかもしれません。

濱口さんが撮影した小高の朝空

インターン生のみなさんが取り組んだ各テーマの詳細など、成果報告会の様子はYouTubeでご覧いただけます。