先輩移住ファミリーに聞く!
小高区のリアルな子育て事情
東には太平洋、西には阿武隈山地の大自然が広がる、福島県南相馬市。なかでも小高区は、「東町児童公園」や屋内型の遊び場「NIKOパーク」、「小高交流センター」などの子育て関連施設も充実しており、のびのび子育てできる環境がある地域です。
また、子どもの出生時や育休取得時には支援金を支給しているほか、幼児教育・保育の無償化、子どもの医療費助成、市内の小中学校に通学する児童生徒の給食費を全額公費負担にするなど、子育てしやすい環境づくりにも力を入れていることも魅力のひとつ。
そんな小高区のリアルな子育て事情について、現在3人の子供を育てる小林隼人さん、小林結さん(奥さん)に話を聞いた。
避難先から小高へ子連れでUターン
JR常磐線小高駅から駅前通りを徒歩で約5分ほど。青い看板が目印の「有限会社 富士タクシー」は、小高区内唯一のタクシー会社だ。その3代目として専務取締役を務める小林隼人さんは小高生まれ、小高育ち。東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故後に発令された避難指示を受け、山形県で避難生活を送っていた。その時に結さんと出会い、結婚。そして長女が生まれた。
その後しばらくは県外で暮らしていた小林さん一家だが、祖父が始めた「富士タクシー」の今後をどうしていくか迫られた時に一念発起。後を継ぐことを決めた。
「もともとは建築資材の営業をしていて、会社を継ぐ事は当時、あまり考えてなかったんです。東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故が発生し、自分の故郷を離れたときに、今後どうするべきかをあらためて考え、祖父が大事にしていた会社をどうするか、このまま終わるのはちょっと納得がいかない。自分でできることはやってみたい、地元の復興のために何かしたいという気持ちで再建することにしました」
隼人さんは、小高区の避難指示が解除された直後に小高に単身でUターン。事業承継は果たしたものの、今度は家族と離れ離れの生活が始まった。1週間のうち、わずか3日しか家族に会えない暮らしが続くなかで、「やはり家族は一緒にいた方がいい」という結論に達し、小高に腰を据える決心をする。しかしその一方で、結さんには不安もあった。
「子どもも小さかったので、生活用水は大丈夫か、外で遊ばせることができるのか、病院など本当に子育てできる環境があるのか、とても考えました」
さらに、当時は避難指示解除直後で住人は少なく、小高区内での保育所や学校などが再開されていない時期。小さな子どもを抱え、知り合いのいないまちで暮らす日々は不便も多かったというが、「小高の皆さんのあたたかさに救われ、自然と不安だった気持ちは減っていきました」と結さん。
現在では、次女と三女も生まれ、家族5人でにぎやかな毎日を送っている。
小高移住後の日常
そんな小林家の一日は、長女を小高小学校に送り出し、次女と三女を「おだか認定こども園」に預けるところから始まる。その後、小林さん夫婦は「富士タクシー」で勤務し、夕方、結さんは子どもたちのお迎えと下校の時間に合わせて退勤。夜はダンスクラブに所属する長女の練習に付き添い、見学などをして過ごすことが多いという。
また休日は、そんな長女が出演するダンスイベントを見に行ったり、買い物やごはんを食べに行くなど外出することが多いそう。
隼人さん「家族みんな、出かけるのが好きなんです。小高は海も山もあるので気軽に自然と触れ合えますし、特に小高には『東町児童公園』や『小高交流センター』、『NIKOパーク』など、子どもたちが屋内・外で楽しめる遊び場があります。『NIKOパーク』は小高小学校に隣接していて、施設のスタッフが勉強を教えてくれたりするなど、学童のようにも使われているので、放課後に学校から直行する子どもたちも多いですね」
「NIKOパーク」内遊び場の様子(南相馬市HPより引用)
結さんが子ども連れで集まるときは、それぞれママ友同士の家を行き来することがほとんど。
結さん「小高は子どもの数自体が少ないので、母親同士も自然に密な関係を築くことができます。私の場合は、長女のこども園入園をきっかけに知り合いが増えて気の合うママ友ができました。小高は季節ごとにイベントがたくさんあるので、ママ友作りのきっかけになると思います。集まりたいと思った時に気軽に声をかけられることがとてもありがたいですし、家族ぐるみの付き合いができることが、小高で子育てをする安心感にもつながっています」
南相馬市は子育て支援に力を入れており、小林家でも長女がこども園に入園すると同時に保育料や給食費が無料になったほか、次女、三女には「在宅保育支援金」として、一人につき、月額1万円が支給されたのだそうです。
結さん「年々子育て環境が良くなってきていて、避難先の地域から戻ってくる人、他地域から移住してくるご家族が多いことを実感しています。私たちが帰って来た当初、長女の時には同年代の子どもは10人ほどでしたが、今では小学生も園児もそれぞれ60人はいますから。小高はのびのび子育てできる環境がありますし、子育て支援制度も充実しているので、これからもっと増えていくでしょうね。」
小高で子育てするメリット
小高で子育てをしていて感じるのは、人の距離の近さ。結さんは暮らし始めてから今までをこう振り返る。
「地域の方が一緒になって子どもの成長を見守り、成長を喜んでくださいます。皆さんにかわいがっていただき、小高のみなさんの優しさに触れ、私も子どもたちもとても幸せに思っています。」
一方、隼人さんは、自分が子ども時代を過ごした場所で子育てができることに安心感があると話す。
「僕らが子どもの頃って、近所の人はだいたい顔見知りでそのへんを歩いていても気軽に声かけてくれたりしていて。時代は変わりましたが、今でもそういう環境は残っていて子どものうちから地域の人と繋がれるのは小高らしさのひとつかなと思います」
「富士タクシー」が運営するデマンドタクシーは、まさにそんな距離の近さがあってこそのサービス。
子どもたちが登下校時に利用しやすいように運行ルートを組んでおり、利用者一人一人の自宅まで送り届けることも。どの子がどこに住んでいるか、把握している地元のタクシー会社ならではの取り組みと言える。学校から距離のある家の子どもたちはもちろん、仕事で迎えに行けない保護者にとってもありがたいサービスだ。小林さん夫婦の長女もよく利用しており、そのまま友人たちと「富士タクシー」の事務所で宿題をしたりすることもあるそう。地域の見守りの目が行き届いているのは、子育て世代にとって心強いに違いない。
地域のつながりが子育ての助けに
子どもの人数が少なくてチーム制のスポーツができなかったり、買い物や病院の選択肢が少ないといったデメリットもあるものの、小林さん一家は、小高で子育てしていくことに大きな不満はないといいます。
最後に、今後小高区への移住を考えている人に伝えたいことを聞くと、こんな話をしてくれた。
隼人さん「積極的に地域の人と触れ合って欲しいですね。人と繋がりを持つのは面倒と感じるかもしれませんが、知り合いがいればきっと困った時にも手を差し伸べてくれるはず。小高の人は温かい人たちが多いですから。それでも難しい時はぜひうち(富士タクシー)を訪ねてください(笑)」
そして、自身も移住者として子育てを経験してきた結さんも、現在の思いを口にする。
結さん「最初は不安いっぱいで移住しましたが、今では小高が大好きになりました。ここでしかできないこと、ここだから感じられることがたくさんあります。これからも地域の支えて下さる方と一緒に子育てや仕事もより頑張っていきたいです。また、より多くの人に小高を好きになってもらえたらなと思います」
移住はもちろん、子育てをしていく上で人との関わりはなくてはならないもの。小林さん夫婦もたくさんの人に支えられてきたからこそ、「同じ境遇で困っている人の力になりたい」と話してくれた。誰かが受けた優しさや心遣いを、また違った誰かにシェアする。その連鎖が小高で子育てをする人たちをつなぎ、地域であたたかく迎え入れる土壌が育まれてきたのを感じる。
親も子も、のびのびと健やかに育つ環境が、ここ小高には整っている。
■有限会社 富士タクシー
https://www.fujitaxi-minamisoma.com/
■南相馬市「子育て支援」
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/childcare/shussan_kosodate/2/index.html
■南相馬市「出産の支援」
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/16/1640/kosodate/16771.html
■南相馬市子育て応援WEBサイト「げんきッズ!!」
http://minamisoma.ikuji365.net/
■在宅保育支援金
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/15/1510/15102/4/2/12529.html
■NIKOパーク
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/15/1510/15101/4/3/14971.html
■小高交流センター
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/21/2110/2/1/7418.html