小高とお酒と、造るひと。 —お酒の造り手座談会【前編】 —
ワインや梅酒、ミード酒(蜂蜜酒)に“クラフトサケ”など、地域の中で多彩なお酒が造られている小高。そのお酒造りに携わっている5人が一堂に会し、座談会を実施しました。この記事では、当日の様子を前後編にわけてお届け。前編では個性的な面々のお酒造りに至るストーリーや地域への想いについてご紹介します。
造り手5人が、初めて一堂に。
2023年末に開催された“お酒の造り手座談会”。会場のカフェ「アオスバシ」に集まった参加者を見て、関係者からは「豪華!アベンジャーズみたい!」という声も。今回は以下の5人にお集まりいただきました。
・haccoba -Craft Sake Brewery- 佐藤太亮さん
・ぷくぷく醸造 立川哲之さん
・コヤギファーム 三本松貴志さん
・大内安男商店 大内安男さん
・里山養蜂園 渡部義則さん
※順不同
——本日はよろしくお願いします!haccobaで一緒に働いていた佐藤さんと立川さん以外の方々は、面と向かって話すのはほぼ初めてということで、まずは自己紹介をお願いします。
佐藤さん 「haccoba」の佐藤です。お米と共にハーブやフルーツ、スパイスなどの原料を発酵させる日本酒の新しいジャンル“クラフトサケ”を2021年2月から造っています。
立川さん 僕は佐藤とお酒を造っていましたが、約1年半前に独立して「ぷくぷく醸造」を立ち上げました。南相馬などのお米を全国各地の酒蔵に持参し、その土地で日本酒やクラフトサケなどを手掛けています。
——お二人は県外からの移住者ですね。それでは次に小高出身のみなさんもお願いします。
渡部さん 「里山養蜂園」の渡部です。小高で蜂を育てていて、あまり馴染みはないと思うのですが、その蜂蜜を使って“ミード酒”という蜂蜜酒を製造しています。
三本松さん 「コヤギファーム」の三本松といいます。小高でワインに使うぶどうを栽培していて、醸造は川内村にある「かわうちワイナリー」さんにお願いしています。
大内さん 大内安男商店の大内です。“露茜(つゆあかね)”という希少品種の梅をメインに栽培していて、それを原料にした梅酒やジュースなどを販売しています。
震災後に始まった、5人のお酒造り。
今回の座談会を有意義な機会にしてもらうため、参加者のみなさんにはそれぞれお互いに聞いてみたいことを事前に募集しました。
——大内さんからは「なぜ、お酒を造るようになったのか?」という質問をいただいていますね。
大内さん そうですね!例えば、三本松さんはご近所なのに、どんな方が全然知らなくて(笑)。
三本松さん ですよね(笑)。私は小屋木(こやぎ)地区で営んでいた酪農が震災後に続けられなくなり、何をしようか考えている時に、たまたま山形の高畠ワイナリーを訪れたんです。それをきっかけに小高もワインで盛り上げられないかと、ぶどうの栽培を始めました。
大内さん なるほど!俺は震災後に土地が荒れているのを見て「どうにかしなくては」と栽培する農作物を探していたら“露茜”という梅の品種を知って。“小高町”(※)だった頃、“梅の花”がシンボルだったんだ。今でもその名残があって小高は“紅梅の里”とも呼ばれていてね。ピッタリだ!って思ったよ。
※旧小高町が平成18年1月に南相馬市へ合併し、現在の小高区に。
渡部さん 私も同じような感じですね。避難指示解除後、地域のにぎわい創出のために何かできないかと周囲の人と話し合った時に「花を植えよう」という声が上がり、「じゃあ、蜂でも飼おうか」と軽いノリで(笑)。その後、妻がミード酒を旅行先から買ってきて「これはいい!ここでも造れないか」と思ったんです。
——お三方は「地域のために」という想いを叶える手段がお酒だったということですね。佐藤さんと立川さんはどうでしょうか?
佐藤さん シンプルに言えばお酒を飲むのが好きで(笑)。好きが高じてお酒造りが気になり、酒蔵の方々にたくさん会いました。そのみなさんが地域や自然との在り方を真摯に考えられていて、モノの造り手としても、地域での事業者としても生き様がすごくかっこいいなと惹かれましたね。
立川さん 僕は大学生の頃からお酒のイベントを開催したり、色々な活動をしたりしてきましたが、元々は造るつもりはなく、「お酒を売りたい」「酒蔵の魅力を伝えたい」という気持ちの方が強かったんです。
佐藤さん 気付いたら造ってたみたいな(笑)?
立川さん そう(笑)。ただ、お酒を売るにしても、造ることを一度は経験しておきたいと思って。最初は2カ月の研修のつもりで酒蔵で働いたんですが、つい楽しくなり、その酒蔵には3年いましたね。
渡部さん 嫌な仕事はしたくないもんね。私も「おいしい」という声があるから、楽しく続けられてるなあ。
大内さん そうそう!好きなことをやるのが一番!
小高でのお酒造りで感じた“執念”。
—–佐藤さんと立川さんはお酒好きということが原点にあり、そこから縁があって小高でお酒造りを始めたそうですが、その中で地域への想いの変化などはありますか?
佐藤さん 移住して事業の準備を始めたのが、2019年の春でした。その時に周りから言われたのは「わざわざ、ここで食に関わるような事業やる必要あるの?」ということでした。
—–当時は風評被害のリスクなども考えられますよね。
佐藤さん はい。ただ、むしろここでやることに意味があるんじゃないかと。僕は米農家さんとやり取りすることが多いんですが、あの大変な時期を乗り越えたからこそ、農業を続ける喜びだったり、“執念”のようなものを感じるんです。
—–執念ですか。
佐藤さん 「絶対に農業をやり続けるんだ」というような想いですね。そして、それを伝えることが自分の役割なんじゃないかという意識が強まりましたね。
—–この地域だから感じられることですね。立川さんはどうでしょうか?
立川さん 僕は高校3年生になる直前に震災があり、大学生になってからボランティア団体に所属したり、自分で立ち上げたりして、福島・宮城・岩手によく訪れていました。そのため被災地に対する想いは元々強かったのですが、やはり住んでいると、より地域のためにという想いは強まっていますね。
大内さん そうやって小高に挑戦する人たちが増えるのは嬉しいし、勇気づけられるよね!
三本松さん そうですよね。新しいことを始めるって、大変ですから。私もそうだったんですが、何かに挑戦する時には否定的な意見をいう人も出てきます。そういう人たちは「勝手に言ってろ!」くらいの気持ちで、一緒にがんばっていきましょう。
お酒の種類が“異常”な小高での酒造り。
—–お酒造りの経緯はそれぞれ異なりますが、お酒というものを通して期待していることはどんなことでしょうか?三本松さんは「地域を盛り上げたい」と仰っていましたね。
三本松さん そうですね!将来的には100年以上続くようなワイナリーを造りたいと思っています。
大内さん すごいなあ!俺はいろんな選択肢の中から、たまたま梅を選んだっていうだけなんだ(笑)。だから、地域のみんなより一歩先に何か走り始めて、後に道一本くらいつくれればいいかなという程度で。
—–自ら行動を起こすことで挑戦の大切さを伝えているんですね。渡部さんも先ほどのお話からすると似たような感じでしょうか?
渡部さん そうですね。小高の景色が、もうちょっとでも良くなればと。もう儲け度外視で、趣味の延長線上のような感覚でやっています(笑)。
立川さん 実際、国産の蜂蜜でやろうとすると儲からないですよね?
佐藤さん 原価すごいですよ!ミード酒って。
渡部さん 利益のためにやっていたら、なかなかキツイですね(笑)。
—–なるほど(笑)。ちなみに佐藤さんは先ほどご自身の役割として、地域のことを外に伝えていければという話もありましたが。
佐藤さん そうですね。小高や地域のことを外の人に伝えるために、全国に出向いて販売しています。そうすると地元のおじいちゃんとかに「お前は地元で商売しないのか」みたいなことをたまに言われてしまうのですが(笑)。
参加者 (笑)
佐藤さん ただ、お酒は地域のお米や原料、ストーリーなど、さまざまな魅力を伝えられるものだと信じているので、お叱りを受け止めつつ、このやり方でいきます(笑)。
—–めげずにですね(笑)。立川さんはどうですか?
立川さん 僕はぷくぷく醸造を立ち上げるときに「浜通りに田畑を増やしたい」というビジョンを掲げました。最近、子どもが生まれて、この地域で育てていくつもりなので、さらにその想いが強まっていますね。
大内さん うん!いいねえ。
立川さん あと、“地酒”を造りたいとずっと思っています。この地域の誇りというか、自分たちのアイデンティティになるようなものを造っていけたらと。
渡部さん いいですね。昔、小高には「金駒」という酒蔵があったんだけど、何十年も前に無くなっちゃったみたいだし。
—–ちなみに立川さんは全国627カ所の酒蔵を回られたということですが、小高くらいの規模で、これだけお酒の種類がそろっている地域ってありましたか?
立川さん いや、人口が4,000人未満の町でこれだけお酒の種類があるっていうのは、ある意味、“異常”かもしれません(笑)。
佐藤さん 人口当たりでみたら、お酒の種類としては日本一かもしれないですね!
大内さん “日本一”って、いいなあ!
座談会の前半では5人が酒造りを始めるまでの歩みを中心に、地域への想いなどを語っていただきました。みなさん、お酒造りのきっかけやお酒に期待することなどは違っても「地域のために」という想いは同じ。本音全開の話を聞くことができました。後半では、それぞれが思い描く未来像などについて、さらに深く熱く語り合いました。
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