「どんどん尖って、星になる」。
高校生グループ“LLO”が小高パイオニアヴィレッジを初訪問。

小高区の地域活性化に取り組む高校生グループ「Live Lines Odaka(以下、LLO)」が、多くの起業家や移住者が集まる「小高パイオニアヴィレッジ(以下、OPV)」へ。施設の見学や取組み、目指している姿の話などを通じて、それぞれが普段見つめている小高とは異なる多様な側面に触れました。
個性的なコワーキングスペースや宿泊所を見学。

今回OPVに初めて訪れたのは、原町高校に通う3年生の菅野すみれさんと木幡千咲さん、1年生の佐藤あきなさん。3人が所属するLLOは高校の域を超えて集まった生徒たちが、南相馬市の事業のひとつとして、小高の復興を考え、小高で実践する活動をしています。
LLOのメンバーは小高の魅力ある場所や人を取材したり、地元のお祭りで小高のはちみつを使った鈴カステラの屋台を出したり、新潟県燕市で開催された高校生サミットに参加したりと、地域内外で活動してきたそう。今回、施設を案内してくれるのはOPVを運営するOWB株式会社の只野福太郎さんです。

只野さん 埼玉出身で2020年に「地方の方が、チャンスがあるんじゃないか」と思ってOWB(当時:小高ワーカーズベース)に入社しました。昨年10月にこの地域で出会った人と結婚して、名字が野口から変わりました。“ただの”福太郎の方が、響きがいいかなと思って(笑)。
そんな自己紹介で少し緊張気味の3人をリラックスさせてくれた後、只野さんはコワーキングスペースや宿泊部屋、ガラス工房などを案内。OPVの建築デザインは「何かが生まれやすいように余白を大切にしている」「境界や行き止まりをなるべく作らずに、色々なものが混ざり合うようにしている」といった話に、3人は感心したり、イベント開催時の写真を見て驚いたり、ハンドメイドのガラスアクセサリーに「かわいい!」と声を上げたり、さまざまな反応を見せていました。


2階の回廊には10周年を迎えたOWBのビジョンなどを紹介している一角も。OPVを訪れた人たちが、自身の思いや野望などのメッセージを書いた“チェキ”が貼られている壁もあり、「最後にみなさんにも、ぜひ書いてもらいたいです」と言う只野さんに「えー、何書こう !?」「むずかしい!」と悩んでいた3人。どんな言葉を書いたのかは、記事の終盤でご紹介します。

本気でやりたいことを、本気でやれるように。

施設の見学後は、3人から只野さんへの質問タイムに。LLOでさまざまな活動に取り組んでいるみなさんから、たくさんの疑問や相談が寄せられました。
木幡さん ご案内ありがとうございました。色々な人がOPVに集まっていると感じたんですが、みなさん移住する前からここを使っているんですか?
只野さん 移住のお試しで宿泊する人が多いですかね。色々な人がいるので地域のことを知れますし、ここに来る人はやりたいことのある人が多いので情報収集をしたり、自分に合った地域か確かめることもできます。
佐藤さん 移住するみなさんは、最終的には何を目指しているんですか?
只野さん お酒を造ったり、地域の健康をヨガで支えようとしたり、やっていることは本当にバラバラです。ただ、それぞれ手段は違っても「絶対こういう未来の方がいいでしょ!」という自分の考える理想の未来に向かっているという点は同じだと思います。
菅野さん 変な人多そう(笑)。
只野さん そうですね!一見、何言ってるかわからない宇宙人や奇人みたいな人が多いかも(笑)。OWB自体も初めはそう見られていたと思います。でも、変な人も突き抜ければ第一人者ですから。
木幡さん 突き抜ければ、第一人者…。確かに。
只野さん それに小高はそういう人たちも受け入れてくれる空気感がありますよね。一度社会が止まって再編されるから、過去の常識にとらわれない地域でもあります。だからこそ、小高区外から来る人間や珍しいことをしている人たちをのけ者にすることもないし、「好きにしたらええやん」という感じですよね。

菅野さん 私は昔の小高を知らないんですが、おばあちゃんの家がこの地域にあって。おばあちゃんが「小高も変わっちゃったね」と少し寂しそうに言ってるのを聞いて…。まちが変わっていくことの良し悪しみたいなものって、どういう風に考えていますか。
只野さん 正直、その難しさはずっと抱えています。望まないかたちで地域を出なければいけなかった人が多いので、小高で震災前までのように暮らしたい人もいれば、OPVに集まる人たちのように新しいことを始めたい人たちもいて。どのような暮らしを求めるかは人それぞれですからね。ただ、それぞれが前向きに交われる場面があれば、そこは応援していきたいですね。
菅野さん なるほど。
只野さん そういった想いもあって、OPVは内輪すぎず、オープンにしすぎず、あえてここは少しクローズドな場所にしているんです。こちらの価値感を一方的に押しつけず、自分たちが本気でやりたいことを本気でやれる環境にすることで、その価値観に合う人たちが集まって、結果として地域全体がよくなればいいなと。

“自分ファースト”の楽しさが、地域課題を解決する。

菅野さん 地域にどこまで開くかということについて、聞きたいことがあります。今のLLOのメンバーは音楽好きが多いので、3月に浮舟文化会館でコンサートを開くことになっているんです。
只野さん へー、いいですね!
菅野さん ただ、自分たちは楽しめると思うんですが、どうすれば地域の人たちを盛り上げることができるかと不安なことも多くて…。
只野さん なるほど…。じゃあ、あれを紹介しようかな。
そういって自身のノートPCを開き、3人に画面を見せてくれた只野さん。そこには大きく「満月相撲」の文字。

只野さん もう10回以上やってるんですが、満月相撲というものをやっていて。小高の村上海岸で満月の夜に相撲をとるというイベントです。
3人 すごい!(笑)
只野さん SNSとかで発信したら全国的に反響があって。今度は沖縄で石川県の人と対戦してきます。もう巡業です(笑)。
木幡さん どうして始めたんですか?
只野さん 満月の日に、大学生と夕食を食べに行ったら、楽しそうにたむろっている高校生たちがいて。それを見て、一緒にいた大学生が「青春でいいなあ」と沈んでしまって(笑)。このまま帰りたくないから、とりあえず海に行こうと。
3人 青春っぽい(笑)。
只野さん で、海岸に行ったんですが、まあ、夜の海なのでやることもないなあと。ただ、ちょうどその頃、相撲のドラマが流行っていて、なぜか青春と相撲が僕の中で結びついて「よし、相撲を取ろう!」と。それでやってみたら、めちゃくちゃ楽しくて、「次回の満月でもやろう!」となりました。もう完全にノリで始めて、「地域のために」とか全然思ってなかったです。
木幡さん それがたくさんの人が集まるようになって、沖縄まで広がって…。
只野さん 自分が楽しいことをやっていたら、色んな人が集まってくれるようになりました。それで後から思ったのが「この地域は夜のエンタメが少ないので、満月相撲はその寂しさや孤独といった課題を解決できているんじゃないか」と。
佐藤さん なるほど。
只野さん そんな風に「地域のために」という言葉を一旦、わきに置いてみてはどうですか。もちろん、その想いから始めることも素晴らしいと思うけど“自分ファースト”で生きる楽しさも感じてほしいかな。そうすると意外と、他の人たちも楽しんでくれるはずです。
菅野さん ありがとうございます!まず、自分たちが思いっきり楽しんで、地域の人たちを盛り上げていきたいと思います!

突き抜けたひとつのものを大切に磨いていく。

自身のエピソードなどを交えて、さまざまな話を聞かせてくれた只野さん。質問タイムの最後には、只野さんから3人に質問がありました。
只野さん じゃあ、せっかくの機会なので僕からも質問を。みなさんは、将来の進路やキャリアは、もう考えていたりするんですか?
佐藤さん まだ具体的に考えていないので、そういう意味では無限の可能性があるんですが(笑)、人と関わる仕事はしたいと思っています。
菅野さん 私は日本画を学ぶために、春から芸大に進学します。小高は楽しそうな人やイベントが多いし、いずれは“アーティストインレジデンス”※ にも絶対参加したいです!
※アーティストインレジデンスみなみそうま:芸術家が小高区に滞在し、地域との交流を図りながら創作活動に励むプログラム。
木幡さん 私は将来、小高でまちづくりに携わりたいと思っているので、県外の大学に進学して、地域のことについて学びます。
只野さん 三者三様でいいですね !今日は将来に役立ちそうなヒントは見つかりましたか?
木幡さん 当初は私がやりたいからまちづくりのことを学ぼうと思っていたはずなのに、いつしか「地域のために」という思考に凝り固まってしまっていて…。もっと自由に考えていいんだと気付きました。
菅野さん 私も好きなことで生きていこうと思ってたのに、いつのまにか“いい子ちゃん” になって、自分を縛っていたような気がします。もっと自分らしさを出して生きていこうと思います!
佐藤さん 私は「自由っていいなあ」と感じました。ここに集まる人たちがやっていることや目標が全然違うからこそ、いろんな可能性が生まれるんじゃないかなと思いました。
只野さん ありがとうございます。特にOPVに集まる人は、すべての能力が高いわけじゃなくて、とても秀でている5点満点の力が一つあるけど、その他は1点しかないみたいな人が多くいます。でも、そういった人たちが集まると、とても大きな力になります。ぜひ、みなさんも自分の突き抜けたものを一つでいいので、とげとげに磨き上げてみてください。そうすると、その能力がスポッとハマって活躍できる場所が見つかるはずです。
3人にそうエールを送ってくれた只野さん。最後に、3人は一緒に写ったチェキにそれぞれが今後の目標や野望などのメッセージを書きました。

木幡さん 『ぶっとく生きる』と書きました。ついつい周りの圧に負けちゃいそうになることが多いのですが、自我をしっかり持って強く生きていこうと思います。
菅野さん 私が書いたのは『尊く生きる』です。進路などでも周りと違うことをしようとすると、どうしても否定する人が出てきて。でも、私にとっては、私自身が一番尊い存在なので、自分の意見を何よりも大切にしていきます!
佐藤さん 『鋭く生きる』と書きました。なんか私色々と丸すぎるので、もっと鋭いとげとげになって星になります(笑)。
冬休みの最終日にOPVを訪れた3人。当初は緊張からか少しかたい様子でしたが、OPVの自由な空気にふれ、次第にのびしろたっぷりの高校生らしい視点でそれぞれが気になったことなどを積極的に質問するように。LLOの活動のヒントを見つけたり、自身のキャリアを改めて考えるきっかけとなったようでした。今後もLLOや地域の高校生たち、OPVに集まる人々の挑戦に期待したいと思います。
LLOのInstagram:https://www.instagram.com/livelinesodaka/