それぞれの移住のかたち、暮らしのかたち。
— おだかる 移住者クロストーク —
「はじめまして」の挨拶から始まった座談会。集まったのは、南相馬市小高区に暮らす移住者3名。東京、兵庫、山形から——。移住までの道のりも、仕事も家族のかたちも違う。それでも共通して感じていたのは、小高区という場所が持つ“どんな人や暮らしでも受け入れる懐の広さ”でした。移住のきっかけから、住んでみて気づいたこと、子育てや働き方、将来のことまで、ざっくばらんに語り合ってもらいました。
“流れ”や直感、やりたいこと。移住を叶えるまで。

座談会が開催されたのは、小高区内にある「子どもの遊び場 NIKOパーク」。今回参加していただいた移住者3名は、育児中のパパたち。お子さんを連れて、参加してくれました。
<参加者プロフィール>※年齢は2025年12月時点
小波津 龍平さん(38歳)
沖縄県出身。2021年に奥様の地元・小高区へ東京から移住。奥様と2歳のお子さんとの3人暮らし。小高区内のデザイン会社にディレクターとして勤務。
側垣 基さん(42歳)
兵庫県出身。2025年4月に兵庫から移住。奥様とこども園に通うお子さん2人の4人家族。小高区の「みらい農業学校」で学びながら就農を目指す。
山坂 千晴さん(25歳)
東京都出身。2025年4月に山形から移住。奥様とお子さん4人の6人家族。仙台が拠点の広告会社に勤め、基本はリモートワークで働く。

——本日はよろしくお願いします!まずは、移住のきっかけを教えてください。
小波津さん 僕は沖縄出身で、東京で出会った妻の地元がこっち(小高区)で。妻がUターンするということで、目的もなくついて来た感じですね。ちなみに娘はこども園に通っているんですが、側垣さんのお子さんも最近入られましたよね?名前をお見かけして……。
側垣さん そうです!最近、こども園に入れました。私は「みらい農業学校」で農業を学ぶために兵庫県から移住してきて、ようやく落ち着いてきた感じですね。
山坂さん 私は以前、山形県で地域おこし協力隊の仕事をしていたのですが、2人とも関東出身ということもあり、妻と「山形以外への移住を検討しないか」と話していて。その中で、たまたま南相馬周辺を通った時に「ここら辺、穏やかで良さそうだよね?」と二人とも直感的に思って。縁もゆかりもなかったのですが、私も妻も妙にしっくりきたんですね。

——側垣さんは明確な目的があって移住されたんですね。
側垣さん はい。もともとは福祉の仕事をしていたのですが、一次産業に興味があったので学びながら住めるところを全国で探していました。その中で、みらい農業学校の存在を知ったのが2025年の2月くらい。そこから一度見学に来て、入るのを決めてからは自分だけ4月に来て、5月には家族を呼び寄せました。
小波津さん 入学を決めてから移住まで2カ月くらい!すごいバタバタですが、ご家族も協力的だったんですね。
側垣さん 「行ってもいいよ」と言ってくれた妻の一言が大きかったですね。あと、妻が仙台出身で実家に近いというのも決め手の一つでした。
——だいぶ時間は限られていたと思いますが、移住にあたって必要な情報などはどのように調べたんですか。
側垣さん 3月末に1週間くらい「お試しハウス」に家族で滞在したんです。その際に地域の空気を体感しつつ、南相馬市役所で妻の仕事の求人情報やこども園などのことを聞いて、移住後の段取りをつけていった感じです。
※お試しハウス……南相馬市への移住を検討している人が、小高区内にある一軒家で実際の暮らしを体験できる制度。宿泊料は無料。
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/16/1640/12153/2486.html
——なるほど!山坂さんはこの辺りに「縁もゆかりもない」というお話でしたが、移住までの流れを教えてください。
山坂さん 移住にあたって気になることは、南相馬市の移住相談窓口によくメールしていたのですが、すぐ返信があったので助かりましたね。その後は、他の移住検討先にも足を運びつつ、1年間で3回くらい「お試しハウス」を利用しました。その中で、地域としてすごく受け入れてくれている印象があったので小高区に決めました。
——南相馬市や小高区が気になったのは直感でも、その後は入念に調べてから移住されたんですね。
山坂さん そうですね。ただ、住むところの問題があって。賃貸や中古で出ている家も少ないので、家族6人に合うサイズの家がなかなかなくて。
小波津さん 確かにないかも。結局どうしたんですか?
山坂さん 最終的には急いで新築しましたが、他の選択肢があったらもっと移住しやすかったかもしれません。それでも、暮らし始めてからは「ここで良かった」と思える時間のほうが増えています。

——いきなり新築とは、すごいですね!側垣さんは移住前の困り事や不安はありましたか?
側垣さん 一番不安だったのは、子どもの“教育”の部分ですね。幼いうちはいいのですが、将来の大学などの進路を考えると、ここでの選択肢は限られているので。ただ高校を卒業してから外の地域に出ることは、他の地域でもよくあることですし。「中学、高校くらいまではいけるやろ。そんなにウチらの子供は勉強好きちゃうで」って妻とは話しています(笑)。
山坂さん 将来の教育に関する不安はありますよね。でも、高校卒業後はやりたいことがあれば、他の地域に出てみるのも人生経験としてプラスになるかなと前向きに考えています。
側垣さん 移住してからお子さんの様子はどうですか?
山坂さん 一番上の子は中3から高1にあがるタイミングでの移住だったので心配でしたが、楽しく過ごせているようなので安心しています。

——小波津さんは、移住前の不安とかありましたか?
小波津さん 僕は正直なにもなくて。妻の実家が農家だったので手伝いをすれば、住む場所や食べ物に困ることはないかなと。まだ子どもがいなかったので、お二人とは状況が違いますね。
側垣さん でも、こんなに小高が子育てしやすいとは思いませんでしたね。自然は豊かですし、室内遊び場が多くて。しかも無料の施設ばかりなんですよ!もう少し都市部だったら、絶対お金かかります!
小波津さん それはありますね!例えば、ここの「NIKOパーク」に常駐しているスタッフさんは、子どもと一緒に遊んでくれたりするし助かりますよね。
山坂さん 想像以上に“地域全体で子どもを育てる空気”がありますよね。小高マルシェや交流センターに行くと、「大きくなってきたね!」とか、地域の人からよく子どもに声をかけてもらえるんです。
小波津さん 確かに顔見知りの人が多いと、安心できますよね。僕も地域のイベントなどに出かけて、子どもを少しの間だけ見てもらったりすることもよくあります。
移住後に感じた、人の温かさ。

——ここからは移住してからのことについてもお伺いします。仕事や働き方も移住の重要なポイントになってくるかと思いますが、どんな変化がありましたか?
小波津さん 僕は移住当初やることもなかったので、自ら“ヒモ”と名乗っていたんですよ(笑)。そうしていると「暇だったらこういうの手伝って」とお仕事をもらうようになって。その中で、元々CMの制作をやっていたこともあり、いま勤めているデザイン事務所の代表に誘ってもらいました。
山坂さん トントン拍子で決まったような感じですね。やはり東京で働いていた時と働き方は違いますか?
小波津さん そうですね。こっちはみんな良くも悪くもゆったりとしているので、18時以降はメールを返すこともなくなったし、暮らしも豊かになったと思います。山坂さんも広告系のお仕事ですが、どんなかたちで働いていますか?
山坂さん 営業として福島と宮城の顧客を担当しています。リモートワークが許されているので、会社の拠点がある仙台に行くのは月1回くらい。あとは家で仕事をしているか、お客さんのところに伺うかですね。
——側垣さんは、みらい農業学校でどんなかたちで学んでいるんでしょうか。
側垣さん 受講期間が1年しかないので、毎日怒濤のように作業をしながら、同時に知識を学んでいるような感じですね。さらに法人研修もあるので、結構忙しく過ごしています。
——それは大変そう!みなさんに仕事以外の面でも、移住してみて率直に感じたこともお伺いしたいです。
小波津さん 移住当時のことを思い出すと、当初は震災の話題に、気を遣いすぎていた感覚がありました。心のどこかで「自分も地域のためにがんばらないといけないんじゃないか」と思っていたり。
——小波津さんが移住されたのは、2016年の避難指示の解除から5年ほど経った頃ですね。
小波津さん ただ実際に住んでみると、みなさんさまざまな想いはあると思うのですが、明るく接してくれて。「気負わなくて大丈夫」「自分が楽しむことが地域にもつながるんだ」と肩の力が抜けましたね。それからはより暮らしが豊かになっている感じがします。

——地元の人との交流を通じて、イメージが変わっていったんですね。お二人はどうですか?
山坂さん お試しハウスに滞在していたときから感じていたのですが、やっぱり人が温かいなと。外から来た人にもオープンに接してくれますね。近所の人たちもよく話しかけてくれるのですがグイグイ来すぎるわけでもなく、いい塩梅で話してくれて「またね」って去っていかれるんですけど。
小波津さん それは僕も普段めちゃくちゃ感じるんですけど、ここの地域は一度、自分たちが避難で移住者になっているので懐が広いのかもしれませんね。
側垣さん 農業学校でも、みなさんとても丁寧に教えてくれます。田植えの研修でも、実際に小高で就農するかもわからない人たちに対して、よくこんなに熱心に指導してくれるなと感動しました。あと、近所の人も急に何かをくれたりしますし。そういえば、この前はイカを突然もらいましたね(笑)。
——取材をしていても、何かをもらうエピソードはよく聞きますね(笑)。
小波津さん 以前、妻のお迎えのために車で待っていたら、知らない人にノックされて。「田中さん?」と聞かれたので「違いますよ」と答えたら、「そうなの?でも、これ渡そうと思ってたやつだからあげるわ」と言われて。「えっ、ありがとうございます!」みたいな。誰でもいいんだって(笑)。魚や野菜をもらえるのは“小高あるある”ですね。
山坂さん 近すぎず、遠すぎず、本当に心地良い距離感ですよね。
小波津さん “距離感”でいうと、人もそうですが、隣町との距離感も気に入っていて。町が発展すると商業施設ができたり、良い面もある一方で色々と問題も生まれると思うんです。そこを小高のポジションだと便利に使える距離にあるのかなと。
側垣さん 確かに小高のこの心地よさは大切にしつつ、色々なまちの施設も使える距離にいるのは魅力のひとつですよね。
小高区で、これからも自分らしく。

——すっかり地域に馴染んでいる様子の小波津さんですが、小高区で暮らしを楽しむための“コツ”みたいなものはありますか?
小波津さん 移住してきた人も、そうでない人も輪に入れてもらいやすい空気なので、どんどん顔を出していった方が良いかもしれないですね。東京だと仕事での人付き合いや大学時代の同級生との関係がほとんどでしたが、こっちにきてからは、そういった“つながりのない友だち”が増えましたね。
側垣さん つながりが生まれやすいんですね。
小波津さん たとえば暇なときにまちを歩いていたら、色んな人に挨拶して顔見知りになっていくんですよ。それが“RPG感”があってどんどん行けるエリアが広がっていく感じで、そのワクワク感は面白かったです。
山坂さん いまはまちなかで声を掛けてくれる方や学校の方との交流が中心なので、色々な場所に顔を出してみようと思います。
小波津さん ただ中には「家族以外の人とコミュニケーションを取らなくても大丈夫」という人もいて。それはそれで、みんな自分らしく心地よく暮らしているように見えますね。

——なるほど。これから小高区でやりたいことや目標があれば教えてください。
側垣さん まずは2人の子どもにのびのび育ってもらうことですね。そうしたら、子どもたちは一度外に出ていくんじゃないかな。なので、いつか子どもが戻って来たときに、のんびりできる場所にしたいですね。その時には、きっとこの辺で米づくりをがんばっていると思います。
山坂さん 小高でどう暮らしていくかは、引き続き考えていきたいですね。もともと地域おこしに興味はあるし、小高で新しいものを作ることに携わりたいと思っています。
小波津さん それであれば、ここの地域おこし協力隊の拠点や色んな人を紹介できますよ!
山坂 ありがとうございます!
小波津さん 僕は家族も含めて、純粋に楽しいことをやり続けたいですね。ここは「ないなら作れば良い」みたいなことがやりやすい場所なんです。僕はDJもやるのですが、このまちにクラブはないですけど、クラブイベントもやろうと思えばできるし、そういうふうにどんどん楽しみを作っていきたいですね。
——最後に移住を実現したみなさんの経験から、移住を検討中の方にアドバイスをお願いします!
山坂さん 移住先として気になる所があれば、とにかく行ってみることかなと思います。その中で「あ、違う」とか「いいね!」をたくさん感じて、一番肌に合ったところを選ぶのがいいかなと。さまざまな自治体で長期滞在できる仕組みもあるので、そういったものを利用して日常をイメージしてみると、ミスマッチも起きにくいはずです。
側垣さん 僕はかなりバタバタと移住してしまったんですが、移住を検討する時間があり、なおかつ都会から移住する人だったら、まずは商業施設や交通機関などがそろっている場所に住むのもありだと思います。そこから徐々に各地に足を伸ばして、気になった町を探してみるのも良いかもしれません。
小波津さん 僕は検討すらしていないので大それたことは言えませんが、コミュニティにはそれぞれ個性があるので、できるだけ地域の人に会って、肌に合うか見てもらったほうが良いんじゃないかと。なるべく、いろいろな人に声を掛けてみるのをおすすめします!
——みなさん、本日はありがとうございました!
小高区で、家族とともに、自分らしい暮らしを育んでいる3人。移住の経緯も、その後の暮らし方も異なるリアルな声から、小高区での日常や移住後の暮らしを感じていただけたらうれしいです。小高区に興味をお持ちの方、さらには移住を検討している方は、小高区で自分らしく暮らすお三方からの「おだかるライフアドバイス」をぜひ参考にしてみてください。
小高区への移住を検討している方は、移住相談窓口へもお気軽にお問合せください。
南相馬市小高区 おだかぐらし https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/21/2110/odaka_gurashi/index.html
また、「おだかる」では、小高区に興味がある方と、小高区に暮らす住民をつなぐオンライン掲示板企画「おだかるボード」の取り組みを実施しました。小高区の外に暮らすみなさまから寄せられた小高のまちや暮らしに関する疑問に、小高区に暮らす住民のみなさんが回答しています。ぜひ、ご覧ください。
おだかるボード https://odakaru.jp/board/


