まちのクラフトマインドが輝く
「おだかつながる市」とデザイナー西山さんの想い

まちのクラフトマインドが輝く<br>「おだかつながる市」とデザイナー西山さんの想い

小高交流センターを拠点に開催し、2024年6月30日で7回目を迎えた「おだかつながる市」。たくさんの出店者がブースやキッチンカーなどを出店し、小高区の内外から多くの人たちが集まります。小高の恒例行事のひとつになりつつある、楽しいお祭りを運営するのは、小高区在住のデザイナー西山里佳さんを中心とした「小高つながる市実行委員会」のみなさん。回を重ねるごとにパワーアップしていくイベントは、どのようにつくりあげられているのでしょうか。今回は、7回目の開催を前に、西山さんにつながる市の運営や、自分の手を動かしてなにかを「つくる」ことに対する想いを伺いました。

延期や中止を経て積み重ねてきた「おだかつながる市」

小高つながる市実行委員長を務める、marutt(マルット)株式会社の代表・デザイナーの西山里佳さん

——今日はよろしくお願いします。西山さんは、現在つながる市の実行委員長なんですね!

西山さん そうです。基本的にはデザイン会社maruttのメンバーを中心として、毎回つながる市に出てくれる市内のガラスアクセサリー工房兼ギャラリーのkirako(キラコ)さん、子育て中の女性たちが自分のやりたいことに挑戦できるコミュニティicoi(イコイ)さんなど、複数の団体や個人の方たちと実行委員会を結成しています。

——-それぞれの団体について、詳しく教えていただけますか?

西山さん kirakoさんは、小高のハンドメイドガラスブランドiriser(イリゼ)から卒業した方が展開するブランドです。icoiさんは、子育て中のママさんたちが好きなことで月3万円くらい稼げるビジネスに挑戦するための講座など、女性たちが活き活き活動する団体です。

——-いろいろなことにチャレンジしている方たちがいるんですね。つながる市がマルシェ形式なのは、そのようにさまざまな立場の方たちが加わりやすいからですか?

西山さん たしかにマルシェという形式で、いろんな方が参加していますね。おだかつながる市自体は無印良品さんが全国で展開する「つながる市」をベースにしているんです。いちばん初めはNCL南相馬※のひとつの取り組みとして、無印良品さんと共同でスタートしました。

※NCL南相馬…Next Commons Lab南相馬。それぞれのメンバーが地域課題や資源に焦点をあてたプロジェクトを推進する、南相馬市の起業型地域おこし協力隊事業。

——-そうだったんですね!今は完全に西山さんをはじめとする実行委員会のみなさんで運営しているのですか?

西山さん はい。わたしも、NCL南相馬のメンバーとして1回目から携わってきました。今回で7回目ですが、過去には台風やコロナ禍で中止になってしまったこともあって。

——-それは歯がゆい。実際に開催できない期間は、どう乗り越えたのでしょうか?

西山さん 実行委員会や開催に携わってくれるみなさんと、「おだかつながる市準備室」という公開企画会議のようなオンラインイベントを行っていました。

——-開催実現に向けて、さまざまな工夫を凝らしていたんですね。

西山さん そこでお互いを知る時間をつくったり、つながる市でやりたいことを交換したり。もしこの取り組みがなかったら、そこで途切れて終わってしまっていたかもしれないです。

——-そうして、みなさんで繋いできたつながる市が、今回で7回目を迎えるということですが、前回までと比べてイベントの規模がグレードアップしているんですよね!

西山さん そうなんです!グレードアップしたおかげで、準備はめちゃ大変なんですが(笑)。まずは、出店者さんの数が増えました。

出店者のジャンルは食べ物はもちろん植物、雑貨、小物、ワークショップまで。個性豊かなブースが揃います

——-いろんなお店があってワクワクしますね!ここまで規模を大きくした理由って、なにかあるんですか?

西山さん 今まではコロナ禍もあって、出店者同士の間隔を空けていましたが今はもうその必要もなくなりつつあるし。単純に、「いっぱいお店やコンテンツがあった方が、楽しいじゃん!」って思って。

——小高区内だけではなく、南相馬市の外から集まってくれる方がたくさんいるみたいですね。

西山さん 出店者は県内のお店が多く、実行委員のメンバーは新潟や東京からも集まってくれています。ただ規模を大きくした分、会場の備品が足りなくて…。ご近所の方にも協力していただいて、なんとか準備を進めているんです。

新しい合言葉はCraft your LIFE

取材当日は、つながる市直前でまさに準備の真っ最中。事務所にはパンフレットや過去のつながる市のサコッシュなどが

——-イベントの規模拡大のほかにも、新しい取り組みはあるでしょうか?

西山さん わたしたちは、つながる市が「人とのつながりを生むマルシェ」だと考えていて。根幹のコンセプトはずっと変わらないのですが、今回新たに”Craft your LIFE”という言葉を設定しました。

——-クラフトなのですね。

西山さん はい。ここでの「クラフト」とは、なにか「もの」を「つくる」ことだけではありません。みんなが自分の仕事や生業に対して真剣に、楽しむために、自分の手を動かして「つくる」というイメージです。そういう意味で小高ってクラフトのまちになってきているなっていう実感があるんです。

——-どのような部分からそう感じますか?

西山さん クラフトのマインドを持っている人が多いと思います。やりたいことや楽しいことに向かって、自分でなにか動こうとしている。なので、その想いをちゃんと形にしたり、共感する人同士で集まったり、何かをはじめたいけど勇気が出ない人の背中を押したり。つながる市が、さまざまな人のクラフトのきっかけの場所になれば、と思います。

——自分ひとりで最初の一歩を踏み出すって、難しいことですもんね。

西山さん あとは、誰かに支配されるんじゃなくて、与えられた常識みたいなものに違和感をもつことも大切だなと思っていて。「これって本当にやりたいことかな?」とか、「みんなのためになるかな?」と問える感覚を持っておきたいという思いも込められていて。実行委員や関わってくださっているみなさんにも意見を聞いて決めた言葉です。

イベント当日は、来場者・出店者ともに思い思いに楽しむ人々で大盛況

——-「つくる」という言葉は、西山さんにとって、どんな意味をもっているのでしょうか?

西山さん 「つくる」の意味か…。そうですね、わたしは、ゼロからなにかを生み出すことだけが「つくる」ではないと思っています。誰かのために、自分のために、課題を解決するために、創意工夫を凝らすことが、「つくる」ということだと考えていて。

——-例えば、地域の問題を解決するということも「つくる」に入りますか?

西山 う~ん、大きく地域全体を思い描く、というよりかは「目の前のことに集中して、手の届く範囲をより良くしていく」という感覚ですかね。それを、みんなができるようになれば、地域は自然と良くなるかな。「つくる=クラフト」は、手で触ったり、足を動かしたりすることで得られる実感があるものだと思うので。そこはいつも大切にしたいと思っています。

西山さんデザインのロゴタイプ。多くの人が集まる場にシンプルだけど角がない感じを意識したとのこと

——ちなみに、つながる市の新しいロゴにくっついているベロが出ているこの子は…?

西山さん まだ名前がないんですよ!通称クラフトくんです(笑)。 つながる市の「つ」と、Craftの“C” の字の形をイメ―ジしていて、ベロが出てしまうほど集中して何かをつくっている、一生懸命な子です。

“クラフトくん(仮)”は「こうやって、一生懸命なにかつくっている瞬間の表情をイメージしました」と西山さん

持続可能なつながりのために、進化する。

西山さん あっ。そういえば今回、つながる市は”Craft your LIFE”を実践するために、新しい試みにも挑戦しているんです。

——-と、いいますと?

西山さん 過去6回の開催で、仕組み化して効率的に運営できる部分が増えてきました。その分、もっといろいろな人に関わってもらえるようにつながる市を進化させたいと考えているんです。その手始めとして、今回のつながる市では、「オープンファクトリー」を実施します。

——オープンファクトリー。工場見学ということでしょうか?

西山さん そうですね。見に行く人からすると工場見学で、工場側からの言葉だとオープンファクトリーです。

——工場が外からくる人を迎え入れるんですね。

西山さん 当初は、小高や南相馬の工場と、このようなマルシェに出店する作家さんから、それぞれ違う課題を相談されていました。まず、工場はOEMで自社製品ではないものを受注生産するケースが多いです。しかしそれは、取引相手に委ねる部分が多く、安定的に自社製品を作りたいと思っても開発が難しいという課題があるんです。

——-そこで、デザインや商品開発の相談が西山さんのもとに。

西山さん 対して作家さんは、すべて手作りなので、人気が出れば出るほど手が足りず激務になってしまうという課題があります。そこで、地域の工場と作家さんが繋がる場を設けて、それぞれの長所をマッチングして課題解決ができないかと考えています。

——-出店者として参加してくれる工場と作家さんにとって、つながる市を出会いの場にするんですね。

西山さん そうです。工場は作家さんの手数の問題を解決し、作家さんはデザインなどの視点から工場の自社製品の開発力になれます。大きなものづくりと、小さなものづくりの現場や、人と人とが繋がれる。そういうことを、これからのつながる市の価値のひとつにしていきたいんです。

——-これまで、そういったケースは聞いたことないですね。

西山さん たしかにマルシェの作家さん起点でオープンファクトリーを企画する例は、あまりないと思いますね。今回はつながる市の後、相馬市で革製品の縫製を行っている工場のボルサ・コマさんに、作家さんたちと見学に伺う予定です。

つながる市当日、準備をしながら会場を駆け回る西山さん

“つくる”きっかけはそこらじゅうに。
クラフトしつづける西山さんが目指すこと。

——-つながる市は、8回目の開催も決まっているとのことですが、今後どのようなものにしていきたいですか?

西山さん “Craft your LIFE”は、小高のみなさんの中になんとなく漂っていたクラフトマインドを言語化できたワードだと思っています。これからのつながる市は、もっとこの言葉を実践して、人と「つくること」の出会いが生まれるような場所にしていきたいです。

——-“Craft your LIFE”は、西山さんご自身にとっても大切な言葉ですよね?

西山さん そうですね。つながる市でも、普段のデザイン会社でやっていることも含めてわたし自身としては、なにかを突き詰めたいんじゃなくて、裾野を広げていきたいという気持ちの方が大きいんです。

——-“つくることをより身近に感じてくれる人を増やす“ということですね。

西山さん そうです。つながる市などを通して、参加したそれぞれの人が”Craft your LIFE”を考えるきっかけをつくっていけたらと思います。でも、クラフトマインドを持った人が多い小高では、むしろ小高のみなさんからそのマインドを実践する姿や力を教えてもらっている部分がたくさんあると思っています。

つながる市当日、会場を訪れた方からは「普段の交流センターや小高とは、また違った盛り上がりがあって、自由で楽しいです」といった声を聞くことができました。

小高の地で、真摯にものづくりに向き合いつづける西山さん。自分の手を動かし、地に足をつけて「クラフト」する姿は、今後もたくさんの人にとって「つくる」きっかけになっていくのではないでしょうか。次回、8回目のつながる市は2024年の秋に開催予定。西山さんと実行委員のみなさん、そしてCraft your LIFEに共感し小高に集まった作家さん、小高の人が力を合わせてつくるイベントが、これからも広がっていくのが楽しみです。