地元に戻るってどんな感じ?小高区出身のUターン者と県外在住者が本音でトーク!

地元に戻るってどんな感じ?小高区出身のUターン者と県外在住者が本音でトーク!

地方で生まれ育った若者は、進学や就職、結婚などライフステージの変化に合わせ、故郷を離れる選択をする人も少なくありません。

では、地元を離れた人は故郷に対してどのような思いを持っているのでしょうか?一方で、地元に戻った人にはどのような思いがあるのでしょうか?

今回は、南相馬市小高区出身の二人の女性の現在の暮らしを紐解きながら、それぞれが抱く小高への思いを聞きました。


只野睦さん
1995年生まれ。2011年に起きた東日本大震災をきっかけに小高区から離れる。県内の短期大学を卒業後に栄養士として就職した後、食品会社への転職を機に愛知県へ移住。現在も愛知県で暮らしている。

渡邊春香さん
1989年生まれ。小高区から宮城県の大学に進学し、卒業後の2011年に東京都内の会社に就職。その後、愛媛県、長崎県などで暮らし、2017年に地元にUターン。家業の農業に従事し、2022年に小高区内に観光農園「ブルーベリーパークぴぽぱ」をオープンさせる。現在は、南相馬市から車で1時間ほどのところにある福島県新地町で暮らしている。


地元を離れて知った小高の魅力

只野さん: 「遊ぶ広報in小高」に参加した時に、渡邊さんの農園でお会いして以来ですね!その節はお世話になりました!
※遊ぶ広報in小高:南相馬市の事業(おだかぐらし体験ツアー)のこと。

渡邊さん:こちらこそ、またお会いできてうれしいです!

只野さん:実は私たち、お互いの実家が近いんですよね!

渡邊さん:そう!ご近所だと聞くと親近感が湧きます(笑)。只野さんは今、愛知県にお住まいなんですよね。どうして地元を離れたんですか?

只野さん:最初は中学3年生の時に東日本大震災が起こって、生まれ育った小高から福島県内の別の地域に避難しました。元々は地元の高校に進学して通う予定だったのですが、それができなくなって、同高校のサテライト校で高校生活を送ったんです。避難してからは南相馬市の鹿島区に住むことはあっても、小高に戻ることはありませんでした。

渡邊さん:そうだったんですね。私は大学4年生の時、アパートを引き払って実家に住んでいた時に震災が起こりました。元々、大学卒業後は東京都内の会社に就職する予定だったので、同年4月に上京したんです。

只野さん:お互い、小高で暮らしたのは学生時代までなんですね。渡邊さんは、小高にはどんな印象がありますか?

渡邊さん:実家が農家だったのもあるけど、「田舎だな~」と思ってた(笑)。

只野さん:確かに!自然が多いイメージ(笑)。私は食べることが好きだったので、食べ物がおいしくていいところだなとは思っていたけど、友達とは「遊ぶ場所がないよね…」という話をよくしていました。でも、宮城県の仙台市には車で1時間半くらいで出られるし、田舎だから小高を出たいという気持ちではなかったんです。

渡邊さん:震災がなかったら、ずっと地元で暮らしていたと思う?

只野さん:震災がなくても一度は地元を離れていたかもしれません。地元を離れようと思ったのは、外から福島を見てみたかったからなんです。

一度離れてみることで、良いところも悪いところも含めて自分自身がどう感じるかを知りたかった。いずれは地元に帰りたいなと思っていて、今もその気持ちは変わっていません。

渡邊さん:その気持ち分かる!私も小高での暮らしが嫌だったわけではなかったけど、一度は都会で暮らしてみたくて、東京で就職したんです。東京での暮らしは、テレビで見るような場所にすぐに行けたり、流行りのものがすぐ手に入ったり、刺激が多くて楽しかったな。

でも今、南相馬に戻ってきて思うのは、一人一人の頑張りがよく見えるまちだということ。東京って人がいっぱいいるから”頑張っている人”って、私にとってはどこか遠い存在だったの。でも、ここでは身近な人が起業したりコミュニティ作りに関わっていたりして、いろんな人がそれぞれの場所で頑張っている姿がよく見えるから、今の自分にとっては南相馬の方が刺激的。移住者も多いし、新しい挑戦がしやすい場所だなと感じています。

只野さん:私も先日「遊ぶ広報」で小高に行った時に、若い人たちが頑張っている姿を見て、とても素敵だなと感じました。

Uターン後の暮らしの変化

渡邊さん:只野さんは、今の愛知県での暮らしに不満はある?

只野さん:うーん。やっぱり遠方なので、コロナ禍もあってなかなか地元に戻れないことですね。家族にも友人にも気軽に会えないし、寂しいです。

渡邊さん:そっか。私は地元で暮らしているけど、震災を機に地元を離れた子も多いし、同年代だと家庭がある人も多いし、SNSでたまにやりとりをする程度で、学生時代からの友達に会う機会は少ないかな。今の交友関係も仕事を通して出会った人が中心なので、普段は家族と行動している感じですね。

只野さん:休日はどんな風に過ごしていますか?

渡邊さん:今住んでいるのが、新地町だということもあって、あまり南相馬市内にはいないかも(笑)。でも、市内の原町区まで行けば生活に必要なものはなんでも揃うし、生活する上で不便はないと思う。

私はこっちに戻ってきて無駄遣いが減ったなと感じていて。東京にいると歩いているだけで素敵なものが目に入ってついつい欲しくなっちゃっていたけど、南相馬ではそういう心配がないので、今は、本当に必要なものにお金をかけられているなって思ってます。

只野さん:それ、いいですね!私はこの間、遊ぶ広報で小高の町歩きに参加して「小高パイオニアヴィレッジ」や「KAON coffee」など、新しい場所がたくさんできていることに驚きました。小高も少しずつ前に進んでいるんだなって。

なぜUターンしようと思った?きっかけとタイミング

只野さん:ところで、渡邊さんはどうして地元に戻ったんですか?

渡邊さん:結婚して子どもができた時のことを考えるようになったことが一番大きいかな。それまで東京、愛媛、長崎といろいろな地域で暮らしてきたこともあって、どこかに腰を据えて落ち着いて暮らしたいなと思っていたんです。実家の近くなら両親にも子育てに協力してもらえると思ったし。

只野さん:ご主人もUターンすることに賛成してくれたんですね。

渡邊さん:主人も子育てをする上で、私の実家の近くはいい環境だと思ってくれたみたい。今は一緒に農業をしているんですが、夫はもともとは美容師なんです。いざとなったら仙台方面で美容師の仕事も見つかるだろうということで、仕事面で不安がなかったことも大きいのかもしれません。

只野さんは、いずれは地元に戻りたいって言っていたけど、現時点で戻っていないのはなぜ?

只野さん:もっと仕事の経験を積みたいなと思うからです。その経験を持って地元に帰ることができたら、地域の役に立てるのではないかと思っていて。具体的にいつ戻るとも決めていないんですけどね。ただ、このままだと帰れないまま、ズルズル時間が経ってしまうのかなという不安もあります。

渡邊さん:あとはタイミングだね。

只野さん:Uターンに向けて、一歩踏み出せない理由の一つが、就職への不安なんですよね。地元に、自分がやりたいことができる場所があるのか分からないし、イチから探すのはなかなか大変そうで。渡邊さんが農業をされているように、明確な“何か”があれば帰りやすいのかもしれません。

渡邊さん:確かに就職先があるのかは不安ですよね。知り合いに、東京から南相馬に移住してきた男の子がいるんですが、仕事を一つに固定せずにその時々でいろんなことをしてるって言ってたな。ある日は清掃会社、ある日は農業や飲食店と、毎日働ける人をもう一人雇うほどではないけど、時々手伝ってくれる人がいるとありがたいって会社も多いんだよね。安定した暮らしができるかは分からないけど、そういう働き方をしている人もいるよ。あとは小高じゃなくても、お隣の原町なら就職先の選択肢は広がるし、地域おこし協力隊のような制度もいいよね。

ちなみにうちでも農産物の加工品を担当してくれる人を探してるんだけど……!

只野さん:えぇ〜!すごく気になります!

渡邊さん:私たち夫婦は、自分たちで作物を育てることはできても、加工業の経験がないので只野さんみたいな人にやってもらえたらうれしいな。只野さんのお仕事や経験は、地元でもとても需要があると思うよ!

只野さん:地元のために何かしたい気持ちはあるので、これまでの経験が活かせるならぜひやってみたいです!今度詳しく教えてください(笑)。

移住に向けて一歩踏み出すには?

渡邊さん:今日話してみて、只野さんのように地元に帰りたい気持ちがあっても、なかなかきっかけがつかめないという人も多いのかなと感じました。地元にいながら経験を積める場所はあるので、そうした情報がもっとオープンになるといいですね。

只野さん:私も渡邊さんとお話ができて、意外と地元の人に聞くとやれることがたくさんあるんだなと気付きました。離れていてもそういった情報が手に入るように、自分からもアクションを起こしていかないと!ですね。

あとは、私と同じように戻りたいけど戻るきっかけを探している人と交流する機会を持ちたいです。一緒に地元に帰りたいと思える仲間がいたら、きっと心強いですよね。

渡邊さん:それ、いいかも!私から言えるのは、どうしようかなと考えて煮詰まってしまっているなら、行動してしまった方がいいよってこと。時間は有限だし、特に若い時の時間は貴重。確かに県外で経験を積むのは大事だけど、南相馬で若い子たちが自分のやりたいことに向かって生き生きしてる姿を見ると、経験がなくても実践していくうちに身についていくことも、きっとあると思えるんだよね。もし違ったらまた別の地域に行ってもいいんだし。ぜひ一歩踏み出してみて!

只野さん:はい!ありがとうございます!


関連リンク

・遊ぶ広報in小高
https://odakaru.jp/%e9%81%8a%e3%81%b6%e5%ba%83%e5%a0%b1-in-%e5%b0%8f%e9%ab%98%e3%82%92%e3%81%94%e7%b4%b9%e4%bb%8b/

・小高パイオニアヴィレッジ https://village.pionism.or.jp

・KAON coffee https://kaon-coffee.jp/