小高に戻ってきた3人の女性に聞いた、
それぞれの自分らしさを育む“おだかる”。
引っ越しやUターンを経て、再び小高での仕事や生活をはじめた3人の女性。震災前の小高を知り、一度は小高の外での暮らしを経験されたみなさんに、仕事のこと、日々の暮らしのこと、少しずつ新しくなるまちのことなど、それぞれが感じている“おだかる”な毎日についてお聞きしました。
三者三様の、「働くこと」への向き合い方。
今回の座談会は、小高駅に併設するhaccobaパブリックマーケットの一角をお借りして開催。約束の時間が近づくと、参加者の只野睦(ただのむつみ)さん、佐藤理恵(さとうりえ)さん、高田夏姫(たかだなつき)さんの3人が続々と駅にいらっしゃいました。
——今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
只野さん 2024年6月まで愛知県にいました、只野と申します。出身は小高区で、いま住んでいるのは隣の原町区です。
高田さん 高田です、よろしくお願いします。出身が原町区、約5年前に引っ越してきて、いまは小高区に住んでいます。小高駅前のカフェ・コワーキングスペースのアオスバシでスタッフをしています。
佐藤さん 2023年5月に20年近く住んでいた東京から地元の小高区に戻ってきました。アオスバシのInstagramの運用代行をお手伝いしているので、高田さんとは面識があります。
——いま小高でされていることやご職業について、もう少し詳しく教えていただけますか。
只野さん 私は、小高区を拠点にしたクリエイター育成プロジェクトに参加しています。AIで生成した画像の修正などを中心に、デザインについて学びながら個人で仕事を受託するという形です。
——学びながら、働くことができるプログラムなのですね。
高田さん 私の場合は女性を中心に、在宅でできる仕事を見つけたり、受託したりしやすいコミュニティづくりを目指して活動しています。
——そのようなコミュニティづくりを目指されたきっかけは何ですか?
高田さん 私の周りに、子育てなどで「自宅で仕事がしたい」という女性が結構多かったので。この地域の現状をみると、これからは女性に限らず、親世代の介護という場面でもリモートワークが必要とされるかなと。もっと、自由な働き方ができる環境を小高や南相馬から始めていければいいなと思っています。
——たしかに、これからさらに需要が増えそうな部分ですね。佐藤さんはいかがでしょうか?
佐藤さん 小高に帰ってきた当初は、ブロッコリーを中心に野菜を栽培している農業法人「I LOVEファームおだか」でSNSの運用代行をしていました。初めての経験でしたが、手探りしながら独学で取り組んでいました。いまは、その後ご縁があったアオスバシのInstagram運用をしています。
——初めて挑戦したことが、次のお仕事にもつながっていったんですね。
佐藤さん そうですね。アオスバシのコワーキングスペースで作業していたところ、ちょうどカフェに関するSNS発信を手伝ってくれる人を探していたようで、お声がけいただきました。
高田さん 周りの人に、「わたしこういうことやりたいんだよね、できるんだよね」って言って広めておくと、人や仕事とのつながりが増えていくかもね。
佐藤さん そうそう、タイミングが合ったときに「そういえばあの人こんなことやっていたな」と需要が生まれると思う。
——そうしたら、これから只野さんにも「デザイン系のお仕事をお願いしたい」と思う方が増えてくるかもしれませんね!
佐藤さん 周りの人たちが只野さんのスキルを知ったら、お声がかかっていきそうですね。
——さまざまなお仕事や活動をされて、忙しすぎたりして困ってしまうことなどないですか?
只野さん 私はまだ南相馬に戻ってきたばかりなので、あまり困っていることはないですね(笑)。
——デザインを「働きながら学べる」という環境を選ばれたきっかけは何だったのでしょうか?
只野さん もともと私は栄養士で、県外の食品系の会社で働いていた時は忙しさに追われることも多くて。Uターンしたこのタイミングで時間に余裕も生まれたので、「いままでやったことのないことに挑戦してみたい」と思ったんです。
——Uターンを機に新しいことに挑戦してみる、ワクワクしますね!
只野さん 栄養士時代にレシピ集をつくったことがあったり、商業系の高校出身でPCの技術を活かせることを探していたりしたことも理由ですね。
佐藤さん ご自身のやりたいことを実現できるスキルを、もう充分持っているような感じですね!
高田さん 私は、「フリーランスだと忙しさが命でしょ!」って思っちゃいます(笑)。震災後の10年間は、専業主婦でお仕事をしていなかったのでいまは忙しくても、めちゃくちゃ楽しいです!リモートワークって、バリバリ仕事をしたい人向けのものでもあると思っているので。
——楽しんでやるのが、何より大切ですね!
佐藤さん 私は逆に、東京で働いていたときの方が結構ハードで。それに、当時の生活では「少々のお金を得るために、こんなに心身を酷使して働かないといけないの?」という感覚だったんです。だからこれからは、そういう働き方はしなくてもいいかなって。私が欲しかったのはお金よりも心のゆとり。「今日、空がきれいだな」と思う時間がある方が充実するんですよ。
高田さん 働きたい人は働けばいいし、人それぞれのペースを選べることが必要だよね。
佐藤さん だから、あまりタイムスケジュールは組まずに、その時々のタイミングで縁のあるものに取り組むようにしています。
——その人によって働き方を選べる、ということがみなさんの小高の暮らしの中では、叶っているんですね。
“おだかる”な日々へのきっかけは。
——一度県外に出られた佐藤さん、只野さんが、小高に戻ることを決めたのには、なにか明確なきっかけがあったのでしょうか?
佐藤さん 10代で、小高ではできないことや自分のやりたいことを求めて東京へ行って、アパレル業界で働いていました。仕事・プライベートを通して限りなく広いのジャンルの方たちと関わってきたのですが、多くのお金や人間関係を得た人たちでも、あまり日々に充足感を感じておらず、みんな同じような悩みを持って、歳をとっていく。その人たちの姿を見ながら、「私はどこで生きたいのかな」って真剣に考えた時に、それは都内ではなかったんですよね(笑)。
——東京での将来の暮らしに、違和感があったのですね。
佐藤さん 東京に居続けても、「“自分の毎日”を感じて生きていける人生にならない」と確信した。そのことが、Uターンを決めた大きなきっかけですね。
——地元の空気感は、何にも代えがたい環境ですよね。只野さんはいかがですか?
只野さん もともと福島が好きで。一度県外に出て経験を積んで、いずれは戻ってこようと考えていました。でも、ずっときっかけがなくて。向こうでの仕事がひと段落したことと、最近結婚して、一緒になってくれる人も南相馬にいるので、「いま決断するしかないかも」と思って!
——ご結婚もUターンのきっかけだったのですね。
只野さん 以前、小高区での「遊ぶ広報in小高」というプロジェクトに参加して、震災で避難してから久しぶりに小高を訪れたんです。その時に案内をしてくれた方を通して、今の夫と出会いました。
佐藤さん・高田さん そうなのー(笑)!
只野さん 夫はいまも、小高でコミュニティマネージャーをしているので、私もいろんな方とつながることができて。帰って来たばかりですが、楽しく生活しています。
少しずつ、新しく進む小高。
——お三方が小高の暮らしの中で、人の出会いやつながりを感じるのはどんな瞬間ですか?
佐藤さん 東京から戻ってきたら、小高に移住者の方たちがすごくたくさんいて。その方たちから新しいことや場所を教えてもらって、新しい人や場所とつながっていく、という感じです。昔住んでいたのに、小高のことを知っているようで全然知らなかったんだな、と。
高田さん アオスバシはスタッフには移住者が多いですが、お客さんとして地元の方なども来てくれていて。働くようになってから人とのつながりは増えていきました。以前と比べたら、カフェがいくつかあるっていうまちの変化にもびっくり。
只野さん これまで小高って田舎っていうイメージがあったんですが、少しずつ変わっていますね。
高田さん 小高や、自分自身の取り組みを盛り上げようという「熱量」は、移住してきた人たちの方が高い気がする。
只野さん やっぱり、震災前とは変化していると感じますね。
佐藤さん 移住者の方とか若い人たちは外に出て活動する機会が多いもんね。
——そのような方たちを通して、小高のまちには新しさが生まれ続けているのですね。
只野さん その新しさが入ってくるからこそ、進める部分があるというか。それ自体、良いことだと思います。
佐藤さん・高田さん そうね。
佐藤さん みなさんそれぞれのやりたいことがあって、主張が違う人たちが集まる場所だからこそ、それぞれの考えや想いを確認する会話は大切にしたいですよね。
——会話ですか。
佐藤さん なにかをする人が表に出るケースが多いけれど、そうじゃない人たちが地域の大部分で。小高の人たちって、そうして穏やかに暮らすこと自体に、幸せを感じて生きている方も多いんじゃないかな。
—–たしかに、発信する人だけではないですよね。
佐藤さん そう。なにかに関わることや参加することだけが、必ずしも「正しさ」ではないと思うから。まずは、地域にいるいろんな方たちが、現状をどう感じているのか、どう思っているのかしっかり「聞く」ことが必要なのかなと思います。
高田さん なにも言わないからって、不満がないわけではないと思うし、なにも言わないけど、いいと思っている、というのもあるかもしれないしね。
佐藤さん なにかをやりたい人がいるのと同じように、なにも発信しない人やなにも思わない人がいても、それはそれでいいはずだよね。
「なにもない」かもしれない小高に、つまっている魅力。
——ほかに、小高に暮らしてみていいな、と感じるところはありますか?
只野さん そうですね、やっぱり人との関わりが身近にあることが、あたたかいなと。一度県外に出てより思いました。
——優しさ、ということですか?
只野さん そうですね、まちなかを歩いていても声をかけてくれるとか。どこにいっても話が尽きないとか。いろんなところで感じますね。
高田さん 買い物中、野菜を選んでいると「こっちの方が新鮮だよ!」って言ってくれたりとかね(笑)。
佐藤さん 親切なんだよね(笑)。 「美味しいから、こうやって食べてみて」と教えてくれるような、“気持ちがかわいい人”が多いですよね。若干シャイなんだけど、こちらが心を開いて接すれば、だいたいみんな優しくてあたたかい。
高田さん 私は、もともと原町区の比較的人口が密集した地域に住んでいたんですが、他人の家のドアが自宅の目の前にあることがストレスだったんです。家を建てて小高に引っ越したら、パジャマで外に出られちゃうくらい、家の周りになにもないんですよ。
——それは開放的ですね。
高田さん すごくいいことだな!と感じましたね。地元の人は「なにもない」と自虐的に言うからマイナス点だと思っているかもしれないけど私にとって「なにもない」は、魅力なんです。
佐藤さん その通りだと思う。住んでいると当たり前に感じることでも、小高以外での生活の経験を通してそれが当たり前じゃないことを知ると、よりその良さを感じるよね。
これからの暮らし方、働き方、小高のまち。
——そんな小高で暮らすみなさんが、これからの暮らしや、ご自身の取り組みに対して持っている展望を教えていただけませんか。
只野さん いまは、キャリアアップで幅広く経験を積みたいと思っていますが、もともと栄養士で「食」に関わってきたので、小高でも将来は食に関わることができたらいいな、と思っています。やっぱり、健康な身体が資本です。
佐藤さん 栄養や食事に関わることを、只野さんのような人に、ぜひ相談したい。
只野さん 地域の方の健康のために、自分にできることをしていきたいと思います。
高田さん 私は、やっぱり在宅で時間的に自由に働ける環境を整えていけたらなと。女性だけに限らず、男性も、老若男女関係なく、それこそ移住者の方も。小高のまちを楽しみながら、その人らしくリモートワークしたいと考える方の選択肢を増やせたらいいな。
——移住をするみなさんにとって、職探しが重要なトピックのひとつですよね。
佐藤さん 私は、“自分の毎日”を味わって生きたいなって思います。明日が当たり前に来るとも限らないから、美味しい食事を味わったり、目の前にいる人との時間を大切にしたり。好きなことをしながら、自分の生活に必要な分のお金を稼ぐという生き方も、小高ではできるんじゃないかな。
——これからのみなさんの暮らしや、小高のまちが、小高らしく発展していくのが楽しみですね。
佐藤さん やっぱり小高のいいところって、「なにもない」というところでもあり、だけど「本当の意味で必要なものはある」というところだと思うんですよね。
——何かを新しくつくるというよりも、ですか?
高田さん そうですね。例えばドローンとか新しい技術を使って、暮らしをより快適にしていくことは必要でも、この「なにもない」っていう魅力とか、自然を壊す必要はないよね。
只野さん 一時的に学業や就職で外に出た若い人たちが、戻ってきたときに安心できる場所でありたいですね。
今回の座談会では、これまでの経歴も、ここから目指す未来もまったく異なるお三方にお話を伺いましたが、共通していたのは「自分にとって大切にしたいものを自分で選んでいる」ということ。小高だから叶えられるその選択やみなさんのこれからの時間が、このまちでさらに輝いていきますように。只野さん、高田さん、佐藤さん、ありがとうございました!