行政区長と移住者のみなさんが語り合う。
地域のつながり方と、これからの「小高らしさ」

行政区長と移住者のみなさんが語り合う。<br>地域のつながり方と、これからの「小高らしさ」

小高区には「行政区」という、地域活動を支える39の自治会があることを知っていますか?小高区での暮らしや住民同士の交流をより円滑に進めるためのコミュニティで、それぞれの行政区にはリーダーとなる「行政区長」がいます。今回は、5人の行政区長と移住者の方にお集まりいただき、まちのこれからや、地域のコミュニティの在り方について、ざっくばらんに話し合った様子をお届けします。
※小高区内の39の行政区は、市街地の中部地区、山間部の西部地区、沿岸部の東部地区に分かれています。

行政区長と移住者、はじめての接点となる座談会に。

この座談会に集まっていただいたのは、5人の行政区長の方と、3人の移住者の方、総勢8人。

——本日はお集まりいただきありがとうございます。最初に行政区長から、お一人ずつ自己紹介をお願いします。

志賀さん 小高駅前の五区の行政区長を務めています、志賀と申します。18歳の時に小高区から出て、福島県内の金融機関に就職し、転勤で福島県内を回って還暦を迎え小高へ戻ってきました。「移住6年目」とも言えるかな。

牧野さん 小高郵便局周辺の二区行政区長を務めている牧野です。震災前は旅館を営んでいましたが、震災後戻ってきてからは食堂を経営しています。

森島さん 小高区内の行政区長で構成される行政区長連合会の会長を務めている森島です。合併前の原町市の出身ですが、24歳の時に小高に住むようになりました。アパレル会社の顧問もしております。

二本松さん 岡田行政区長の二本松と申します。還暦までは高校の教員をしておりました。退職したら、さぞ時間に余裕が生まれるだろうと思っていたらとんでもない。現在地域の中で5つの役をやらせていただいて、忙しく過ごしております。

阿部さん 下耳谷(しもみみがい)行政区の行政区長を務めています、阿部です。長らく南相馬市役所に勤めておりました。震災後、小高区の自宅をリフォームし、暮らし始めて、6年ほどになりました。

——みなさん様々な役職を担当されていて、お忙しそうです。続いて移住者の方たち、お願いします。

只野さん 埼玉県出身の只野と申します。都内の大学を卒業後、2020年に小高ワーカーズベース(現・OWB)に入社し、小高区に移住しました小高パイオニアヴィレッジという施設の運営や、新しく小高区に来る人達が地域に馴染みやすくなるよう、コーディネートする活動をしています。

町田さん 2024年9月に小高区に移住してきました、町田です。もともと長野県で酒造りをして、夏は東京都で働くという生活をしていました。日本酒と食が大好きで、haccobaやぷくぷく醸造という酒蔵のお手伝いや浜通りの食を盛り上げる活動ができれば、と思っています。

岡崎さん 2024年の春に移住をしてきました、岡崎です。2024年3月に大学を卒業して、只野と同じようにOWBに就職しました。

参加者 おお、若い!

左から、二本松さん、町田さん、阿部さん、岡崎さん
左から、志賀さん、只野さん、牧野さん、森島さん

行政区や行政区長の役割とは?

みなさんの自己紹介が終わったところで、いよいよ座談会のスタートです。

——では、行政区長のみなさんへの質問があるという、岡崎さんからお願いできますか?

岡崎さん はい。実は、これまで小高区での生活の中で行政区との関わりを持てずにいて。そもそも、行政区とは何か?というところから教えていただけませんか。

仙台出身でマンション暮らしだったため、「地域の自治会へ所属する感覚が強くなかった」という岡崎さん

阿部区長さん 一言で言うと、「地縁」でしょうか。昔からつながりのある地域がそのまま行政区という形になったと思います。

志賀区長さん 小高区の中の、コミュニティのひとつですかね。ここは一旦バラバラになった経験がある地域で、それを再構築しないといけない。つながりが強いコミュニティがあると、防災や防犯に際しても、みんなを助ける地域の絆になると思うんです。

阿部区長さん その中で、行政区長に加えて南相馬市から委託を受ける行政嘱託員として、広報紙の配布や連絡を回すことなどを担当しています。あとは、新しく住み始めた人がいればその方を把握して、ごみの出し方など生活に関わる情報をお伝えしながら支えていくのも、役割のひとつです。

行政区長の仕事を通して、移住者とのつながりも築いていきたいと話す阿部さん

志賀区長さん 結構いろんな相談が来るんですよね。「駅前の電灯が切れている」とか「野良猫が多い」とか。散歩をしながら地域の見回りなどもしています。

——そんな役割まで!それはお忙しいはずです。

岡崎さん コミュニティの再構築を目指しているということでしたが、行政区の集まりなどはどのくらいの頻度でやっているんですか?

牧野区長さん 行政区によりますよ。たとえば二区では、年2回草刈りなどの清掃活動がありますが、毎回そればかりだと参加してくれる人が少なくなってしまう。新しく住民同士が集まれる行事があればいいなと思い、昨年は小高区内の井田川地区で交流会を開催しました。

二本松区長さん 行政区の行事に参加してくれる人が固定されてしまうよりも、その方のお子さんやお孫さんにも参加してもらって、新しいつながりが増えていくといいですよね。

牧野区長さん 移住してきた方たちとの関わりも持てる機会かな、と思っています。

阿部区長さん 下耳谷行政区では唯一の移住者が、「おだかつながる市」の企画などをしているデザイナーの西山里佳さんなんです。

参加者 おおー!

阿部区長さん 行政区の集まりに盛んに参加してくれて、百人力です。

志賀区長さん 一緒に作業をしたり、なにかを食べたり、そういう時間があると、どこか通じやすくなると思うんだよね。行政区の行事を、新しく来てくれた人と地域とを、お互いに紹介しあえる機会にしたい。

各世代の横のつながりを、「織りなす」ような場所を。

できるだけ行政区の集まりにも参加したいと語る町田さん

町田さん それで言うと、わたし草刈りとか結構興味あります!(笑) でも、そういった情報ってどこに出ているんですか?

行政区長のみなさん 回覧板かな…。

町田さん 回覧板か!いま、小高パイオニアヴィレッジに住んでいるんです。

岡崎さん パイオニアヴィレッジで、回覧板をチェックする機会はあまりなかったかも…。

森島区長さん 震災後に新しくできたお店が何軒もあるけれど、そこと、行政区とのつながりを築くことは今後の課題かもしれません。行政と住民との情報をつないだり、みんなが「なにかやりたい」と思う時に、その「なにか」を考えたりすることも、行政区長の役割のひとつじゃないでしょうか。

行政区長として、行政・住民同士の「架け橋」のような存在になる必要を感じている、という森島さん

町田さん 草刈りのように、誰かの力や人手を必要としている機会に参加したい気持ちはあって。ただ、行事の開催を知る機会が、今はどうしても少ないです。回覧板に加えて、情報伝達の経路にデジタルを取り入れたり、ここに行ったら行政区の情報がわかる!という掲示板があったりすれば、参加しやすくなるかも…。

二本松区長さん とてもわかります。ただ、いきなりデジタルをやってみて!と言われると、正直ちょっと難しいと思う面も。

行政区長のみなさん 南相馬市の方でデジタル回覧板を使う、という話も出ているよね?

阿部区長さん 小高区のサイトもあるもんね。小高パイオニアヴィレッジ専用にページをつくってみるとか?(笑)

志賀区長さん 逆に、若い方が主催するイベントの情報も、実はあまり年配の方たちがわかっていないことが多いと感じています。

「若い人たちが何をしているかも、ちゃんと把握して参加したい」と思いを語る志賀さん

志賀区長さん せっかく開催するイベントの情報はできるだけみなさんに届けたい。なので、自分の行政区内に対しては、小高交流センターに貼ってあるイベントカレンダーなどを参考に、回覧板で情報を提供するようにしています。「こんなイベントがあるらしいから、よかったら行ってみたら?」というつもりで。

——そういったことから、住民の方同士のつながりが広がっていきそうですね!

二本松区長さん 若い方たちが持っているアイディアや、思っていることなどを、自由に発信・交換できる場所があるといいのかもしれません。

志賀区長さん 各世代同士、横のつながりはあるから、それらを「織りなす」じゃないけど。世代が違うつながり同士が、出会える場所があったらいいかも。

気合を入れて「小高らしさ」を引き継ぐ、受け取る。

今回の座談会を開催するにあたり、「移住者の方たちと話してみたい」という行政区長の声をいただいていました。行政区長のみなさんから移住者の方への質問もあるようです。

志賀区長さん わたしたちは小高区がほとんど地元だから気が付かないかもしれないけれど、「ここいいな」とか逆に「ちょっと違うんじゃない?」とか、感じる部分はある?

岡崎さん わたし、小高区の星がすごく綺麗だなって思って。ほかのまちにいる時よりも夜空と距離が近く感じます。

阿部区長さん 星が綺麗な中、田んぼの中に常磐線の電車が走ると銀河鉄道みたいで、いいんだよね。

座談会が進むにつれて、みなさんが徐々に打ち解け和やかな空気に

岡崎さん 仕事で疲れてふと空を見上げた時に、星がこんなに綺麗というだけですごく救われた気持ちになりました。

只野さん 僕は、まち中で地域の方から「どこから来たの?ありがとうね」と声をかけてもらう度に、なんだか、人や若者がこのまちにいることそのものが大切なのかもと感じました。そうじゃない状態を知っている地域だからこそ、でしょうか。

志賀区長さん 若い人が歩いていたり、楽しそうにしている様子が聞こえてくると、「ああ、いいなあ」と思う。

阿部区長さん 震災後、避難指示が解除されたときはまず、子どもたちが小高区に帰って来られるようにしたいと思いました。子どもたちに小高区を忘れてほしくなかったですから。

志賀区長さん 若い世代に対して、わたしたちが「小高らしさ」のつなぎ役にならないと、と思うことは多いですよ。何気ない風景にしても、相馬野馬追のような大きな行事にしても。

只野さん 福島県の浜通りで、新しい産業やまちの様式が生まれて、住む人もどんどん変わっていく様子を見て、逆に何が残っていればその地域なのだろう?と考えることがあります。

以前、双葉町の「だるま市」へ行き「双葉町らしさがつまっている」ことに感動したと話す只野さん

——どんなものが「小高らしさ」になるか?ということでしょうか。

只野さん はい、それをもう一度ちゃんと考えるタイミングかなと思います。10年、20年と時間が経ってしまって、みなさんから引き継げることが少なくなってしまってからでは虚しい。僕たちも、気合を入れてみなさんから受け取らないと。

「若いみなさんを応援したい」行政区長の思い。

——小高らしさをつないだり、人のつながりを強めたりするために、みなさんがもっとこんなことができたらいいな、と思うことはありますか?

牧野区長さん 今回のように、顔を合わせてお話できる機会がもっとあるといいなと思います。各行政区に移住者の方がどれくらいいるかっていうこともわかりますし。

牧野さんは「行政区のみならず、地元の消防団にも加入する人が増えてほしい」と話します

阿部区長さん それを知りたいんだけど、こんな機会がないと実はわかりにくいよね。

志賀区長さん そうして交流して、なんのしがらみもない若いみなさんの発想は、小高のまちにとって大きな成果を生むんじゃないかと思います。自由な発想を発揮してほしい。そして、ここにはそれを受け入れて応援できる空気があると思うんだよね。なにかあったら、口は出さないけれど応援したい。

——チャレンジ精神をもって小高に移住する若者にとって、前向きな空気感ですね。

二本松区長さん 例えばお金をかけて箱物をつくっても、その地域に暮らす人の心が育たないとあまり意味がない。人が集い、地域の文化を感じられる場所になっていることで、小高区が楽しいとか、ここで過ごす時間が精神的に良かったと思えるのではないでしょうかね。

小高らしさを大切にするためには「住民・行政区・行政とが力をあわせることが不可欠」と二本松さん

暮らしているみなさんの気持ちが磨きあげる、小高の良さ。

町田さん 移住者と一言で言っても、その目的は様々だと思います。わたしや只野さん、岡崎さんのように、やりたいことのために誰かの考え方・アクションに共感して小高に来た人もいれば、ライフスタイルや子どものため、という場合もあるでしょうし。

「小高区はやりたいことに挑戦できる環境は整っている場所だからこそ」と語る町田さん

志賀区長さん 長野県から、酒造りのために移住を決める町田さんの行動力、すごいと思いますよ。

町田さん 小高区には、やりたいことに挑戦できる環境がある。それに次いで、移住してきた人が長く暮らしやすいと感じる「定住の後押し」もあると、とてもありがたいなと思いました。

只野さん このまちに飛び込んでくる人達って、既に小高区で暮らしてイキイキしている人の姿を見て、来てくれるということも大きいのかな、と。

二本松区長さん そうですよね。その輪を広げていったり、町田さんが思うようなことを発信できたりするシステムを、個人だけでなく行政区や小高区役所、南相馬市と一緒に運営できたらいいんじゃないかな。

志賀区長さん 日本全国で、移住定住に力を入れる市町村がたくさんある。小高区には物的なアドバンテージが少ないかもしれないけれど、我々行政区長としては、来てくれる方はみなさん支えたいと思っています。小高区でなにかきっかけをつかんで、さらに羽ばたくならば、それも応援します。

只野さん 「自助」、「共助」、「公助」がある中で、小高区は特に「共助」が強みなのかと思います。自分ひとりでは無理だけど、いきなり公に発信するのも難しいとき。行政区や地域のコミュニティでカバーできる範囲を広げていけると、もっと楽しい地域になっていくんじゃないでしょうか。あ、行政区の行事の内容、いくらでも提案しますので!

「これから、まち中で顔を合わせたら挨拶やお話できますね」と語らうみなさん

行政区長のみなさん いいね!頼もしい!

自分のやりたいことに真剣に向き合う暮らし。そして、そんな一人ひとりを応援する地域のコミュニティのひとつである行政区。そこに流れるあたたかさや前向きな雰囲気こそ、小高区の大きなアドバンテージのひとつなのではないでしょうか。同じ小高区の中でも、世代やコミュニティが少しずつ異なる人々の交流が盛んになっていくことで、今後ますます地域のつながりが強まり、「小高らしさ」が魅力的なものに進化していくのが楽しみですね。ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました。