農家になって、初めての夏。
みらい農業学校を卒業した高田さんの“野菜と想い”が実る畑へ。

2025年春、小高区のみらい農業学校(※)の第一期生として卒業し、農業への挑戦を始めた高田哲也さん。地域の農業にとって期待の存在です!そんな高田さんが小高区で個人農家として活動する毎日はどのようなものなのでしょうか。今回は、たくさんの野菜が実りの時期を迎えた高田さんの畑で、農家のリアルな日々や、農業に対する思いを伺いました。
※みらい農業学校…2024 年 4 月、小高区に開校した農業学校。 1年間のカリキュラムで、雇用就農に特化した実践的な技能を学ぶ。
多種多様!個性豊かな畑をツアー。
取材が行われたのは、7月半ば。夏の野菜たちが一気に収穫の最盛期を迎える中、畑を案内していただきました。
——今日は、よろしくお願いします。
高田さん よろしくお願いします。まずは畑を一通り、案内しますね。ここはメロンのハウス。「ころたん」という品種で、普通だと手のひら程のサイズで収穫しますが、もう少し大きく育てます。

——畑で育てられているメロンを初めて見ました。とても綺麗な実がなっていますが、何度か育てた経験があるんですか?
高田さん みらい農業学校に在籍していた1年間は、メロンの管理を担当していましたが、自分でここまで育てるのは初めてです。
——収穫したメロンは、どうするんですか?
高田さん うまくいけば、マルシェや直売所などでも売れたらと思っています。このあと、果肉の甘味を上げるために水の量を抑える工程が残っていて。実はここからが勝負なんです!
続いて見せていただいたのは、オクラ。よく見かけるオクラは断面が五角形の緑色ですが、高田さんが育てているのは、「島オクラ」と呼ばれ、やや丸みを帯びた赤色の品種です。

高田さん 一般的な星形のオクラよりも、柔らかく食感がいいんです。赤色の珍しさもあってか、直売所に持って行くと、すぐに売り切れることが多いです。
次に見せてもらったのは、「スイスチャード」という葉野菜。

——茎の部分がとってもカラフルですね!畑の中でも目を引きます。
高田さん そうですよね。見た目の良さはもちろん、栄養価も高いんです!寒さに強いので年間を通じて栽培できて、収穫したものは直売所や販売店に卸しています。
——なかなか珍しい野菜で、人気が集まりそうですね。
高田さん そのほかには、里芋、ナス、かぼちゃ、人参、セロリなども栽培しています。

高田さん 自分がつくる野菜は、基本的に手のひらに収まるサイズにしようと思っています。あまり大きいと調理するのも大変だし、一人暮らしの人が腐らせてしまってももったいないし。無駄な手間やフードロスがない形にしたいんです。
——たしかに、葉物でも根菜類でも、そのサイズ感は単身世帯にもありがたいですね。


高田さん ちょっと食べてみてください。
そう言って、高田さんはセロリの葉を1枚ちぎってくださいました。口に入れると…
——味が濃くて、美味しい!ものすごくセロリを感じます!
高田さん そうなんですよ。この品種は葉1枚で味が強い。清涼感もあるので、お酒を飲む人はモヒートのようにするのがおすすめです。あとは、ガーリックライスやミネストローネに入れても美味しいです!
——野菜を栽培している高田さんから、美味しい食べ方まで提案いただけるのはありがたいですね!
高田さん 野菜を卸す先の飲食店の方から提案してもらうことも多くて。こういう食べ方があるんだ、と思いながら野菜を育てるのは楽しいです。より美味しい楽しみ方を広めていきたいと思っています。
きっかけは「自分の中のスイッチ」。
大きさや色味、香りなど、個性のある野菜を幅広く栽培している高田さんですが、どれくらいの野菜を育てているのでしょうか。
高田さん 春から夏で15品目くらい、秋から冬にかけては10品目くらいで、年間だいたい25 品目作ろうかと考えています。自分の性格的にはもっと作付面積を広げて、ド派手にやりたいのですが(笑)。就農1年目で、一人で向き合っているので。少しずつできることを増やしていくつもりです。
——一人で 25 品目!高田さんのパワフルさを感じます。畑の設備なども、高田さんお一人で管理されているということですか?
高田さん そうです。ほ場はもちろん、ハウスや水回りの整備なども自分でやりましたね。

高田さん もともとはこの土地の持ち主の方が、ご高齢で管理が難しくなったと聞いて、自分が管理させてもらえるなら、ここで畑を始めようかなと思いまして。
——そもそも高田さんが最初に農業を始めようと思った理由は何だったのでしょうか?
高田さん 前職で樹木を扱う会社にいて、植物を相手にしてはいましたが、その頃は農業にまったく興味がなかったんです。その会社で、日々突っ走ってきたのですが、これで良いのかというモヤモヤとした気持ちもありました。その自分を変えてくれる何かスイッチのようなものを探していたのかもしれません。
——スイッチ、ですか?
高田さん 次のステージに行くために、今度は自分で何かやらなきゃだめだ、と。そして、前職を辞めたタイミングでたまたま、みらい農業学校の開校のチラシを見かけました。
——農業との出会いは、たまたま見たチラシだったということですか?
高田さん そうなんです。これは、学校に行けということだなと思いました(笑)。やっぱり、スイッチは自分で入れるものだと思うので。そしてスイッチが入ったらとにかくやり続けるのが、自分のやり方です。

1枚のチラシから農業と出会い、野菜づくりに心血を注いでいる高田さん。畑は、農業を始めたばかりだとは思えないほど作物に溢れ、活き活きしている様に見えました。
——今年、独立して農業に向き合う中で、高田さんが大切にしていることはなんですか?
高田さん まずは、野菜の色や種類など、ひとつ特徴があるおもしろい野菜をつくりたいと思っています。たとえば、普通オクラは緑だけど赤いオクラが食卓に出ると「こんな色のオクラあるの!」っていう話題が生まれるじゃないですか。
——先程、畑を見せてもらったときみたいに、会話が盛り上がりますね。
高田さん そうそう。あとは、そうすることで飲食店や卸先の方々にも、様々な野菜やその食べ方を提案しやすいですね。実は、「多種多様」な「色」や「食」、「植」という意味を絡めた「TASYOKU(たしょく)」という屋号でSNSでの発信も行っています。(※)
※TASYOKU https://www.instagram.com/ta.syoku/ 高田さんが畑で栽培する野菜の様子や、様々な色や食、植に関わるアイディアを発信するアカウント。
高田さん そして、珍しい品種を育てていれば、他の農家さんと比較されることが少なくなります。商売としては、1種類の野菜を大量につくって売るのが原則だと思いますが、自分はまずはいろんなものを作ってみたい。そうして作った野菜の「さばき方」で勝負した方がおもしろいと考えているんです。
——だから、「より美味しい食べ方の提案」といったところにも力を入れるんですね。
高田さんの曲げられない信念。
高田さんがここまで熱く農業に打ち込む、その原動力は一体何なのでしょうか?
高田さん 俺はやっぱり、“望みたいタイプ”なんです。
——望みたいタイプ、というのは。
高田さん 上昇志向で、負けたくないっていう気持ちが強いんです。もしも中途半端にするならやらない方がいいと思うので、やると決めたらとことん。逆に、やらないと決めたときにはとことんやらない(笑)。動くときは動くし、止まるときは止まる。自分の感覚を大切に進みます。

——そうして進んだ先に、高田さんが目指していることは、ありますか?
高田さん まずは自分の畑をしっかり頑張る。そのうえで、ゆくゆくは育てた野菜を卸すだけでなく、お客さんのところまでデリバリーすることや、調理して提供する飲食店の経営にも携われたらと思っています。
——先程おっしゃっていた、育てた野菜の「さばき方」の部分ですね。
高田さん そうです。今後、私と同じように、何か自分でやりたいと思っている人との出会いにも期待しています。集まった人たち同士の個性が活きるグループをつくれたら、という構想もあるんです。
——未来に向けて思い描くことが、盛りだくさんですね。
高田さん いろいろありますが、まずは、農業を通して自分が関わった方たちやお店が、盛り上がってもらえたら嬉しいです。そこが曲げられない信念ですね。

野菜の表情に向き合って、見えてくるもの。
農家として様々な課題に直面することもあると思うのですが、特に難しいと感じるのはどんなことなのでしょう。
高田さん いや、もう日々難しいです。日々、変わっていく野菜の“表情”に向き合い続けています。特に、農薬はあまり使いたくないので、必要最低限の使用に留められるように工夫と判断を繰り返しています。
——日々、野菜に寄り添い続けているんですね。最後になりますが、これから農業を始めたいと考えている方や、みらい農業学校への入学を希望されている方に、高田さんからひと言メッセージを!
高田さん やっぱり、”最初の気持ち”を忘れないでいてほしいですね。「なぜ、何のために農業をやりたいの?」と、自分が農業を思い立った最初のきっかけですね。
——高田さんにとっても、その”最初の気持ち”が支えになっているんでしょうか。
高田さん 現実としては農業を辞めてしまう人も一定数いるんです。自分が思い描いていたプランが覆されることも、もちろんあるんですよね。

高田さん でも、そんな負けそうな時に、自分の「やりたい気持ち」は自分を支える「志」になります。志を持って、とにかくやり続けるんです。やり続けた先に、何か見えてくるものがあると思っています。
——高田さんも、「見えてくるもの」に向かって進んでいる最中なんですね。
高田さん そうです。見えてこなかったらやめればいい。でも、見えてくる手前で辞める人が多いから、もったいない。「何のために自分はどうしたいのか」という志は、農業を続ける原動力だと思います。
——貴重なお話をありがとうございました。
偶然の出会いにより、農業の道を歩み始めた高田さん。小高区のみらい農業学校で習得した知識と技術をもとに、自身の信念に向かって力強く歩み続けるその姿に背中を押される人も多いのではないでしょうか。
自分らしく、自分のやりたいことに挑戦する──高田さんをはじめ、そんな“おだかる”な人たちは小高の魅力のひとつです。これから先、さまざまな人の想いによって、小高区の未来にさらにたくさんの希望が実っていくのが楽しみです。