みんながチャレンジできる場所「アオスバシ」がオープン。より多くの人と幸せをシェアする仕組みを。
豊かな地域社会づくりのために、小高を拠点に社会課題を解決する人材教育を目指す一般社団法人オムスビ(Odaka Micro Stand Bar)。この組織に立ち上げから携わり、代表理事を務める森山貴士さんは避難指示が解除された2017年に小高に移住しました。森山さんが、いまの小高とともにやりたいこととは。まちづくりやご自身の生き方を伺いました。
青葉寿司、改めアオスバシ。
常磐線をまたぐ陸橋から見える青葉寿司(あおばずし)の看板は、小高の方々にとって町のシンボルのひとつ。震災前は多くのお客さんたちで賑わっていましたが、震災後は休業を続けていました。2023年7月1日、そんな旧青葉寿司の店舗をリノベーションしてオープンしたアオスバシは、全国から取り寄せた選りすぐりのパンと、こだわりの推し商品、 そして美味しいコーヒーを提供する「パン屋カフェ兼コワーキングスペース」です。お店の外観は歴史ある寿司屋のままですが、中に入ってみると明るく広々とした空間がひろがっています。
——今日はよろしくお願いします。お店の看板は、いまも「青葉寿司」のままなんですね。
森山さん そうなんです。「青葉寿司」のアナグラムで「アオスバシ」なんですが、地元の方が「小高の町の景色には青葉寿司の看板がないと!」とおっしゃっていて。町のシンボルは大切にしなくちゃと思って。
取材当日には、コーヒーに関するワークショップが行われるということで、地元の方々とともに飛び入りで参加させていただきました。
——急遽入れてもらって、ありがとうございます。
森山さん ぜひ、参加していってください。ちなみに今日のテーマは「コンビニで買えるドリップコーヒーを美味しく淹れる方法」です。
——おお、とても知りたい!よく使うのですが、美味しく淹れられている自信ないです。
森山さん では試しに。いつも通り淹れてみてもらえますか。
——緊張します…が、こんな感じでどうでしょうか。
森山さん コーヒーの色がついたお湯ですね。薄い!
——ええッ
森山さん でも、良い間違いです。実はドリップコーヒーを淹れるときに最もポイントなのはお湯の量。だいたい「粉の重さ」×15倍のコーヒーのできあがり量を想定してください。
丁寧で分かりやすい森山さんの説明には、参加者みんなが興味を惹かれ質問が次々に上がりました。「こうして集まってお話できたり、美味しいコーヒーを飲めたりする場所が近所にあるって、ありがたいことです。」という声も聞こえました。
東京で感じた課題を、小高で解決するために。
ワークショップを終えた森山さんに、さっそくインタビューをさせてもらいます。
——改めてではありますが、森山さんご本人についてお話を伺わせてください。
森山さん どこから話そうかな。いま目立った活動としては、このアオスバシを運営しています。が、本業はITエンジニア。南相馬市内外含めて、中小企業さんのマーケティングやDX支援をさせていただいています!
——え、本業はITエンジニア!? コーヒーに詳しすぎてバリスタかと…!
森山さん 生業としては、ITの方で生計を立てています。オムスビは赤字運営なので、そろそろなんとかしたいところ…(笑)
——そうなんですね!赤字運営ながら、活動を続けてこられた理由って何だったのでしょうか?
森山さん そもそも移住するきっかけに関わる部分なんですが、僕の前職は成長真っ盛りのベンチャー。たくさん人を採用しても、しっかり教育しない、という環境でした。やり方を教わらずにいることで、せっかく努力を積み重ねて入社してきた人の道が塞がってしまうのは、すごくもったいないと思って。
——違和感を感じられたんですね。
森山さん もっと若いうちから社会課題に向き合う環境があればと思い、教育という分野に関わりたいと考え始めて。会社に人材育成をやれっていうのは、あまり現実的ではないので、それを実現できるような仕組みを自分が作ろうと思いました。
——その取り組みを、なぜ南相馬で実践しようと思ったのですか?
森山さん 東京で課題解決力がある人を100人育てても、インパクトが薄い。でも人口3000人の町でできれば、町の景色を変えることができる、と思ったんです。
森山さんは2014年から原町区や鹿島区で暮らし、小高には2016年に避難指示が解除されたタイミングで移住しました。
森山さん その時が町の「仕組み」をつくる側に回れる、唯一のタイミングだと思ったので。それが僕がここにいる理由です。
森山さん 2016年、避難指示が解除されたばかりでまだなにもない状況の中で、新たに小高産業技術高校がつくられることになったんです。大人すらまだ少ない町で、通学してくる高校生に喜んでもらえるものをつくれないか、と思いました。
——なるほど。
森山さん 高校生たちへのアンケートから、「カフェが欲しい」という声があることが分かりました。そこで、土日にキッチンカーでのコーヒー販売を始めました。それが、Odaka Micro Stand Barスタートのきっかけです。
——OMSBは高校生の声から生まれたんですね。
森山さん そのころ、「人と出会っていくとちょっとずつだけど、できることが増えていくな」ということが分かってきたんです。僕、そもそも人集めるの得意じゃないし。コミュニケーション力がすごいわけでもないし。
キッチンカーでのコーヒー販売を通して、人とつながっていくことが実感できたという森山さん。2018年には実店舗での営業を始めました。
森山さん 「美味しいコーヒーがある」とか「新しい面白いことがある」ということに惹かれる人を集めたくて。自分から積極的にいくのが不得意なら、向こうから「来てくれる仕組み」をつくろうと思ったんです。
小高でやりたいこと、小高の人とやりたいこと。
——小高に移住して6年弱がたった今、森山さんの実感として、地域との距離感はどんな感じでしょうか?
森山さん 気持ち的には、僕は地元の住民に近い立場です。みなさんもそう思ってくれていると思う。 それは、店舗としてお店を出したことと、小高で子供を育てていることとが大きいですかね。
——お子さんはおいくつですか?
森山さん 今年で5歳です。小高での子育ては、いい意味で距離が近くてみんなが子どものことを気にかけてくれるあたたかさがあります。
ただ、もしも将来子どもがなにかひとつの道を究めたくなった時、チャレンジできる学問やスポーツの選択肢を増やしたい、という課題感は感じているかもです。
——その課題感を変えていくために、森山さんがこれからの小高でやってみたいことはありますか?
森山さん あの、めちゃめちゃあります。
——めちゃめちゃ!
森山さん この地域の課題って、「人が集まりにくい」ところだと思うんです。集まらないから、新しいことが生まれにくい。このループを乗り越えないといけません。
——ループを乗り越える。
それに対して、もしも毎日100人が訪れる場所を作れれば、なにか新しいことが生まれたり、自分も行ってみよう、と思える好循環が生まれると思うんです。そんなことができるハコとして、アオスバシは存在していければと思います。
——いままでのお話を聴いていて思うのですが、森山さんみたいにチャレンジしたいことをすぐに行動に移せる人って、結構少ないと思うんです。
森山さん はい、チャレンジ変態だと思います。
——一歩を踏み出したい人に対して、森山さんからアドバイスいただけることって、ありませんか?
森山さん いつも言っていることが2つあって。 1つは、「自分がチャレンジできることの幅は、なにかしないと大きくならない。」だから、何でもいいからやれることをやってみる。
——まずはチャレンジが先。
森山さん どんなに小さくてもいい。なにもできることが見つからないなら、プランターに花を植えて飾ってください。それだけで、町の景観が良くなると思います。
——それくらい簡単に考えていいんですね。
森山さん もうひとつは、誰かと組むことで、責任やリスクを分散や肩代わりしあうこと。僕らはアオスバシという場を通して、設備投資や集客の不安を肩代わりする手伝いができるかなと思っています。
——皆さんの、いろんな「やりたい」が集まるような場所ですね。
森山さん そうそう。たとえば、うちでは製菓業の営業免許もとったんです。お菓子作りにチャレンジしたい人がいたら、いつでもこの場所を使ってほしい。
——そういった仕組みづくりを通して、小高の暮らしの幸せを目指していくということですね。
森山さん 小高の住民一人ひとりが、まずは自分たちにできることをして町を良くしていこう、という想いがある。町づくりを人任せにしない意識がしっかりあるから、僕は小高を良い町だなと思うし、これからにも期待感があります。
一人ひとり、主体的に良い町づくりを目指している小高で、みんながともに進んでいくための仕組みづくりに奔走する森山さん。つぎにどのような挑戦をされるのか、とても楽しみです。