小高発・無人駅舎の新たなカタチ。
“パブマ”で育まれる、地域のにぎわいと可能性。

小高発・無人駅舎の新たなカタチ。<br>“パブマ”で育まれる、地域のにぎわいと可能性。

高校生を中心に、さまざまな人が行き交うJR小高駅。2020年3月の常磐線全線再開に伴って、駅は無人化されました。それから約4年後、改札脇にある使う人のいなくなった旧事務室に再び明かりが灯りました。「haccoba 小高駅舎醸造所&PUBLIC MARKET」、通称“パブマ”が営業を始めたのです。施設内には日本初の無人駅舎にできた醸造所もあり、オープン直後からメディアに注目され、地元の人々の期待も集まるパブマを訪問しました!

日本初!無人駅舎にある醸造所&ショップ

駅の改札脇にオープンした“パブマ”。ホーム側からも入店できます。

パブマを運営するのは、日本酒の新しいジャンル“クラフトサケ※”を2021年から小高で造り続けている「haccoba-Craft Sake Brewery-」(ハッコウバ クラフトサケブルワリー)です。今回はhaccobaの佐藤みずきさん、スタッフとして勤務している武田朱里(じゅり)さんのお二人にパブマで話を伺いました。

※クラフトサケブリュワリー協会の定義に基づく。

――本日はよろしくお願いします!まず、お二人がどういう風にパブマに関わっているか教えてください。

みずきさん 私は店のマネジメントをしたり、取り扱う商品をセレクトしたり、まあ“何でも屋”ですね!

朱里さん 私はアパレルの小売経験もあるので、接客がメインで商品をディスプレイしたり、楽しみながらお店に立っています。

みずきさん 未来の店長です(笑)

朱里さん うそですよね?初めて聞きました(笑)。

――はじめから重大発表が(笑)。オープンして3カ月以上経ちましたが、反響はどうですか?

みずきさん こんなこと言っていいかわかんないけど、思ったよりお客さん来るよね?(笑)

朱里さん 来ます!来ます!

みずきさん うれしい誤算ですね。高校生が少ない週末はとても静かな場所だったんですが、今はわざわざ隣町から来てくれたり。

朱里さん 意外と高齢の方も多くて。「あの駅がこんなにきれいになったんだね~」とうれしそうにしてくれます。

みずきさん ここを目当てに久しぶりに駅に来たり、帰省する時の楽しみにしてた方もいるみたいです。

「地域の方から駅は高校生が多いので大人の目があると安心すると言われます」とみずきさん。

この施設は日本初となる無人駅舎内のブルワリー(醸造所)、パブリックマーケット(物販エリア)、パブリックスペース(交流エリア)から構成されています。みずきさんは、構想段階から携わってきたそうです。

――この施設の構想はいつ頃から考えていたんですか?

みずきさん haccobaが小高に醸造所を建てる前に、無人駅舎の再活用について考えるワークショップがあったんです。その時から「酒蔵にできたらおもしろいんじゃないか」と言っていましたね。

――たしかに現役で動いている駅に醸造所があるなんて、あまり見たことないですもんね。

みずきさん 駅にあると車を運転しなくていいので、実は醸造所は相性がいいんじゃないかと思っていました。

――なるほど。電車やタクシーで移動しやすいですね。

みずきさん あと、駅はまちの入り口なので、いろんなお酒づくりやマーケットの商品を通じて、小高の魅力を発信できれば、おもしろい空間になるんじゃないかなと考えていました。

「おじいちゃんやおばあちゃんに改札側の窓から『切符ください』と声を掛けられるんですよ」と笑う朱里さん。

作り手の想いに共感したアイテムをセレクト。

マーケットの多彩な商品は、見ているだけでも楽しめます。

パブマのマーケット(物販エリア)には、小高でつくられたものをはじめ、地域内外から集められた50種類以上の商品が並んでいます。

――雑貨だけじゃなく、日用品や文房具もあるんですね。

みずきさん そうですね。駅を使うのは高校生が多いので。ここをオープンする前に、高校生と「何が商品としてあったらうれしいか」を話し合ったんです。

朱里さん リクエストの多かった冷凍クレープも人気です!小高の小中学校の給食に出ていた思い出の味みたいで。

みずきさん 40代くらいの人まで、みんな「これ知ってる!」「この味あったよね?」って盛り上がってるよね(笑)。

朱里さん ですね!あと、凍みもちの天ぷらがあるときには、地域のおじいちゃんやおばあちゃんが「昔は家でも作ってたんだよ」って必ず教えてくれます(笑)。

冷凍クレープはみかん味がよく給食に出ていたらしく、人気とのこと。

――地元の“鉄板”ネタなんですね!ほかの商品はどうやって選んでいるんですか?

みずきさん まずは地域の人と、外から訪れる人の2軸で考えていて。地域の人向けには、なかなか小高では手に入りにくいものや、日常的にあったら“うれしいもの”を。外から訪れる人向けには、小高や周辺地域のお土産になるようなものを選んでいます。

朱里さん そういった2軸で探しつつ、基本的にはhaccobaのお酒づくりでコラボレーションしたり、ゆかりのある商品が多いですよね。

みずきさん そうだね!福島に限らず、それぞれの地域で魅力的なものづくりをしている作り手の思いに共感できるようなものを集めています。

――オープンにあたって小高在住のデザイナー・西山里佳さんともオリジナルブランドを立ち上げたと聞いたのですが。それも、そんな想いから生まれたものですか?

みずきさん そうなんです。haccobaのお酒のラベルのデザインもお願いしている西山さんと「Ufer」(ウーファー)というブランドを立ち上げました。

――それはどういった流れで?

みずきさん どこか地域の外に行くときに、「もっと小高のお土産あればいいな」と感じていて、ちょっとした手土産になる“おだかグッズ”を作りたいと思っていて。

――おだかグッズ、いいですね。

みずきさん 西山さんは、移住は私たちよりもすこし早いと思うけど、起業したタイミングだったり、センスだったり考え方が色々と重なることが多くて、よく話をするんです。そんな中で、おだかグッズの話をして。

――そこも共感しあって。

みずきさん そうですね。西山さんも「靴下とかいろんなグッズを作れたらおもしろいよね」という話をしていて、このショップができるタイミングでやってみようかと。

――それで完成したのが、エコバッグと缶バッジですね。

朱里さん いいですよね!シンプルでかわいくて、こういったグッズで小高を発信できると地域が魅力的に伝わると思います。

みずきさん ありがとうございます!そう言ってもらえると、うれしいです!

Uferのエコバッグと、パブマのオープン時に記念に配布された缶バッジ。

“水辺”で生み出される、新しいものごと。

移住者のお二人。「馴染むのが大変とかは全然なかった」(朱里さん)、「だよね!」(みずきさん)と振り返りました。

――ちなみにブランド名にはどんな意味があるんですか。

みずきさん Uferはドイツ語で「水辺」という意味なんです。水辺には多種多様な生きものが集まって育まれていきます。それが小高に似ているなって思って。

――小高に似ている?

みずきさん ずっと、小高に住んでいる人たち。離れる決断をした人たち。私たちみたいに移住してきた人たち。それぞれが混ざり合って、新しいものを生み出していると思うんです。

朱里さん たしかに、この店に立っていると、いろんな人に出会えて、より小高の多様性のようなものを実感できますね。

――なるほど。まさに、にぎわいあふれる水辺ですね。

みずきさん そうです!小高の人は移住者や外から来て何かに挑戦する人たちを受け入れて、応援してくれるんです。しかも受け入れるだけじゃなくて、自分で挑戦する人も多くて。生きることを楽しんでいるというか。みんな、新しいことを何でも始められる環境だと思います。

朱里さん 私は福島市から移住してきたんですが、その前から小高に感じていた「何か新しいものがはじまるワクワク感」みたいなものは、いまも感じますね。

「将来は高校生が自分たちで商品選びから関わった商品で一棚作れたらおもしろいと思っています」とみずきさん。

――そういった地域の人たちが作る空気感が、オープンで自由な小高らしさを生んでいるのかもしれませんね。今後、パブマをどんな所にしていきたいですか?

朱里さん 地域の方たちが「どこ行く?」「パブマあるよね」と言ってもらえるよう身近な空間にしたいですね。あとはイベントやワークショップもたくさん開催するつもりです。

みずきさん いろんな人が自分の居場所のように感じて、自由に気軽に入って来られるような場所にしたいですね。高校生には、この店も含めて「自分たちの駅」だと感じてもらえたら、うれしいですね。

――お二人とも本日はありがとうございました!

2024年内にはパブマでの、ブルワリーもいよいよ稼働。まずは、みずきさんが「haccobaとしてずっと興味があって挑戦したかった」と話す、haccoba初となるノンアルコールドリンクを、その後には日本初の無人駅仕込みのクラフトサケも造られる予定です。

さまざまな人が行き交い、多くの出会いがにぎわいや可能性を育み、その姿がまた地域内外から人を集める“呼び水”となる水辺として。haccobaとパブマの無人駅を活用した小高発の新しいストーリーは、まだはじまったばかりです。

パブリックスペースでは電車の待ち時間に“ダベったり”、勉強する生徒も。